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午後の講義が終わって、




教室内は学生たちが帰り支度をしている。




茉耶もバッグに教科書をしまっていたけど、




どこか落ち着かない。




今日一日、心がざわついていた。




原因はわからない。けれど……。




──そのとき、突然、校内アナウンスが鳴った。




「学生の皆さんにお知らせします。

現在、校内に不審な人物の侵入が確認されました。

各自、安全のため教室など施錠可能な場所に避難し、

指示があるまで移動を控えてください」




教室内がざわつき、どよめきが広がる。




「えっ、マジ?」「やばくない?」




ざわつく学生たちの中で、茉耶の身体がピタリと止まった。




鼓動が一気に早くなる。




足元がふわっと浮いたような感覚。




──誰かがドアを「バンッ」と強く閉める音。




その一瞬で、茉耶の意識が一気にあの夜へ引き戻された。




「うるさいんだよ、お前は!」




記憶の断片がフラッシュバックする。




肩が震え、喉が苦しくなって、呼吸が浅くなる。




そんなとき。スマホが震えた。




ポケットの中で細かく震えるその感覚に、




私は反射的に取り出す。




画面に表示された名前に、息をのんだ。




「李玖」




慌ててスライドして通話ボタンを押す。




「……茉耶!?」




焦ったような、




でも何とか落ち着こうとしている李玖の声が、




耳に飛び込んできた。




「……っ、李玖……」




自分でも気づかなかった。




どれだけ心細かったのか、




その声を聞いた瞬間に分かった。




「どこにいる?大丈夫?」




「2号館……214講義室。…外出れなくて」




「わかった。動かないで。

……今すぐ行く。すぐだから」




その声に、胸の奥の恐怖が少しずつ溶けていく。




「……怖い」




「大丈夫。俺が行く。絶対に、迎えに行くから」




その言葉が、心にじんわりと染みて、




震える指でスマホを強く握りしめた。




「……待ってる」




通話が切れると同時に、




外のざわめきが一瞬遠くに感じた。




私の世界の中には今、李玖の声だけが残っている。











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