新たな始まり。

p.22


「うわー席全然空いてないね」




「今日も安定に人が多いねー」




学食で、




友達の結衣と空いてる席を探していると___




「茉耶っ」




見覚えのある声に辺りを見渡す。




窓際の席に座っていた李玖が、手を上げてた。




私が気づいたのを見ると、




挙げていた手をこまねく。




「友達が良ければ一緒にどう?」




「……いいの?」




思わず聞き返すと、彼はコクリと頷く。




結衣を見ると、うんうんと頷いていた。




「おじゃまします」




私と結衣は李玖の向かい側に腰を下ろした。




「ありがとう、助かった。ほんと空いてなくて」




「いや、俺もひとりで浮いてたから助かったよ。

茉耶と一緒にごはん食べられるとも思ってなかったし」




その言葉に、私の胸がふっとあたたかくなる。




それと同時に、ちょっと照れくさい。




「……奇跡のタイミングだったね」




「うん、運命、かもな」




さらっとそんなことを言う李玖に、




思わず目をそらす。




「茉耶、こっちの人?」




「うん、地元の友達。……昔からの」




私が答えると、結衣はちょっと意味ありげに




微笑んだ。




「へぇ……なんか、雰囲気いいね」




その言葉に、




李玖も私もほぼ同時に小さく咳払いをする。




それがちょっとおかしくて、3人で笑った。




そのあとも、天気の話とか、




最近の授業の話とか、他愛ない会話。




でも、こんな風にふたりの日常が




自然と重なっていくのが、うれしいと思った。




──そして、昼休みの終わりが近づく。




「また席取れなかったら、呼んで」




「……うん。ありがと」





「俺も、茉耶が呼んでくれたら嬉しい」




そんな言葉を残して、李玖は立ち上がった。




彼の背中を見送ると、




隣の結衣がニヤニヤしながら




肘でつついてくる。




「ねぇねぇ、あれ絶対脈アリじゃない?」




「……なにが」




「いや〜、わかりやすいってば。茉耶もさ、気づいてるでしょ?」




返事ができなくて、




私はお箸をいじりながら俯いた。




でも、心臓はさっきからずっと、




静かに、でも確かにトクンと鳴り続けていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る