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「……あれから、どうしてた?」




ふいに李玖が口を開いた。




李玖は静かに頷く。




何も言わずに、でも真剣に聞いてくれていた。




「知らない土地で、知らない人たちと暮らして

……最初、すごく不安だった。」




李玖は静かに頷く。




何も言わずに、でも真剣に聞いてくれていた。




「夜になると、いろんな音にびくってして。

夢にも、あの夜が出てきた」




思い出すたびに、




胸がきゅっと締めつけられる。




でも今、こうして話せているのは、




李玖が目の前にいるから。




李玖の瞳が少し潤んだように見えた。




だけど彼は、落ち着いた声で言った。




「……俺も、何度も思い出したよ。

あのとき、ちゃんと助けてあげられなかった。会えなくなってからも、ふ

と茉耶のことを考えて、何してるんだろう、元気でいるかなって」




その言葉だけで、心の奥が熱くなった。




「私、何度も李玖に助けられたよ」




そう言うと、彼は少し目を伏せて、




ふっと笑った。




「それ、言われると泣きそうになるんだけど」




「ダメ。泣くのは私の担当だから」



 

そう言って、ふたりで小さく笑った。




「あの時の痛みも、怖さも、全部

消えたわけじゃないけど、ちゃんと前に進んでるから。」





「うん」




李玖は小さく頷いたあと、こう続けた。




「……前に進んでくれてて、よかった。

じゃないと、こうして会うこともなかった気がする」




その言葉に、胸がぎゅっとなる。




「……うん。そうだね」




ふたりの間に、あたたかい沈黙が流れた。















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