p.17

眩しさに目を細めて、布団の中でスマホを探る。




やけに手触りが冷たい。




画面をつけると──6:12。




まだ、起きるには少し早い時間。




それよりも先に目に入ったのは、





LINEの通知バッジだった。




心臓が、跳ねた。




一瞬で眠気が吹き飛ぶ。




指先でロックを解除して、LINEを開く。




_____


茉耶 ➤ 李玖


ごめんね、寝ちゃってた。

でも、私も、会えてよかった。

また話そうね。


_____




短い言葉に、たくさん詰まってる。




「……返ってきた」




思わず、小さく声が漏れる。




既読がついて、1時間後の返信。




あのあと、ちゃんと読んでくれてたんだ。




すぐじゃなかったけど、




それがなんだっていうんだ。




俺にとっては、この上なく、嬉しい1時間後だった。




スマホを胸に置いて、もう一度目を閉じる。




まぶたの裏に浮かぶのは、




昨日の中庭のベンチでの茉耶の横顔だった。




スマホを胸に乗せたまま、しばらく天井を見てた。




「……返信、どうしよう」




たった一行の返事に、こんなに悩むのは初めてだった。




“また話そうね”




その言葉が、やけにあったかくて、嬉しくて。




けど、下手なこと言って変な空気になりたくない。




……ちょっと気合い入れすぎると、




今の距離感には重すぎるかも。




そんなことを考えながら、




ベッドを出て、洗面所へ向かう。




顔を洗って鏡を見ても、ぼんやりと笑ってる自分が映る。




「……バレバレだな」




なんか、久しぶりだ。




こんなに、誰かの言葉ひとつに振り回される朝なんて。




キッチンで簡単にトーストを焼きながら、




またスマホを手に取る。




未読通知がないことを確認して、ちょっとホッとして。




それから、画面を開いたまま、指を止めた。




「また話そうね」




その言葉が頭の中で何度もリフレインして、




何を書けば、それにちゃんと返せるんだろうって悩む。




──何気ない会話でいい。




でも、今の“嬉しい”気持ちは、ちゃんと伝えたい。




トーストの焼ける音が聞こえた瞬間、




ふっと浮かんだ言葉を、そのまま打ち込む。




_____


李玖 ➤ 茉耶


おはよう。

返信ありがとう、目覚め一気に良くなった。笑

また話そう。ほんとに、楽しみにしてる。


_____




指が止まったまま、最後にもう一度読み直して、




「よし」と小さく呟いて、送信。




パンの香ばしい匂いが部屋に広がって、




今日は、ちょっとだけいい朝になりそうだった。











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