李玖 side




部屋の明かりをつけずに、




ベッドに倒れ込んだ。




暗い天井を見上げながら、ずっと頭の中には、




あの笑顔が浮かんでる。




──ほんとに、茉耶だった。




ベンチで話したときの声。




こっちを見たときの、少し驚いたような目。




それでも、やっぱり、




間違いなくあの茉耶だった。




スマホを手に取る。




連絡先──ずっと変わってない。




何度も消そうと思って、消せなくて。




ただの執着なんだと思ってた。




でも今日、5年越しに届いたんだ。




あの番号が。




『“MY”』──あの声を初めて聞いたとき、




心臓が止まりそうだった。




まさかって思って、でも確信があって、




何度も繰り返し聴いた。




歌声は、あの夜と同じだった。




弱くて、苦しくて、それでも真っ直ぐで。




あのとき名前を呼ばれて、




手を握ったあの夜のことを思い出した。




「……生きてて、よかった」




無意識に口にしてた言葉が、




また胸の奥で繰り返される。




机の端に置いてあるイヤホンを手に取ると、




スマホで“MY”のプレイリストを開いた。




再生ボタンを押すと、




静かに、彼女の歌が流れ出す。




目を閉じる。




今はまだ、手を伸ばして触れられる距離じゃ




ないかもしれない。




でも——




「また、会えるよな」




小さくつぶやいた声は、暗い部屋の中で




ただ一人きりのものだったけど、




不思議と、孤独じゃなかった。




イヤホンを外して、スマホの画面を見つめる。




通知も、着信も、何もない。




茉耶の連絡先を開いたまま、




ずっと指は止まっている。




“生きてて、よかった”




あんな言葉、照れも何もなく口にできたのは、




きっとあの瞬間だけだった。



……どうしよう。



今、送るべきじゃないかもしれない。




でも、今日話してから、




ずっと言いたかったことがある。




迷いながら、ゆっくりと指を動かして──

送信。



_____



李玖 ➤ 茉耶


今日は、ほんとに会えてよかった。

また話せたら嬉しい。



_____




……たったそれだけなのに、送信ボタンを押した指先が、少し震えていた。



返事がすぐに来るとは思ってない。



それでも──



“もう一度、ちゃんと繋がりたい”



心の奥で、そんな声が響いてた。










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