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キャンパスの中庭。
さっきまで私が座っていたベンチに、
今はふたりで並んで座っている。
「....まさか、ここで会うなんてな.
びっくりした、最初信じられなかった。」
李玖が懐かしさと、
照れが混ざったような表情で笑う。
私はまだ、夢を見てるみたいで、
呼吸がうまく整わない。
「……こっちの大学に来てたんだね?」
「あぁ、地元出たくてな」
「そっか、学部は?」
「法学部。正直、毎日課題に潰されそう。
そっちは?」
「文学部。」
「そっか...」
普通に会話できてる...
嬉しいような、恥ずかしいような気持ちが胸の奥でじわじわと広がる。
まさか、覚えていてくれたなんて。
まさか、こうしてまた会えるなんて。
「“MY”って茉耶だよな?曲、全部聴いた。
……正直、最初震えた...あの夜の声だった。」
私の喉が、少しだけ詰まる。
あの夜——助けを求めて、名前を呼んだ、
あの夜。
思い出すと、
まだ少しだけ胸が痛くなるけれど、
李玖がこうして隣にいるだけで、
不思議と心は静かだった。
「ありがとう、聴いてくれて」
そう言うと、李玖は小さくうなずいて、
まっすぐ私を見た。
「ありがとうは、俺のセリフだよ。
……生きてて、よかった」
その一言で、
こらえていた何かが溶けそうになった。
ふいに、私のスマホが小さく震える。
講義のリマインダー。
画面をちらっと見て、小さく声を漏らす。
「……ごめん、次、講義ある。」
すると、李玖も時計を見て、
あ、と小さく声を漏らす。
「俺も。次ある」
名残惜しさを隠せず立ち上がると、
李玖もゆっくり立ち上がった。
そのまま、少しの沈黙。
「……また、会える?」
李玖が言った。
少し不安そうで、でもまっすぐな声だった。
その問いに、私は迷いなく頷いた。
「うん。今度は、ちゃんと話そう」
李玖が、ふっと優しく笑った。
そして、背中を向ける直前——
彼はふと立ち止まって、振り返った。
「……なら、また今度。俺の番号変わってないから」
「うん、私も変わってない」
ふたりの歩幅はまた、
少しずつ重なり始めていた。
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