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目が合ったまま、数秒。
立ち止まっていたその人が、
ゆっくりと歩いてくる。
まっすぐに、迷いなく、私の方へ。
その歩き方まで、あの頃と同じで。
足がすくんで、動けなかった。
風が吹いて、イヤホンから流れていた音楽が、
ふと止まった気がした。
彼は、目の前まで来ると、
ほんの少しだけ眉をひそめて、
懐かしさと、戸惑いと、
安心が混ざったような声で言った。
「……茉耶、だよな?」
その名前を聞いた瞬間、
胸の奥に、しまっていた何かがほどけた。
声も出せずに、ただ頷いた。
彼の目が、優しく細められた。
「……やっぱり。すぐには信じられなかったけど、やっぱり、そうだよな」
5年。
私のこと、忘れてるかもしれないって、
思ってた。
でも……覚えててくれた。
顔が熱くなる。
目の奥がじんわりと痛くなって、
こらえきれずに、小さな声で言った。
「……李玖」
その名を呼んだだけで、
5年間張っていた心の糸が、
音を立ててほどけていく。
どちらからともなく、ゆっくりと、
手が伸びて。
それが交わる寸前、李玖がふっと笑った。
「探した。ずっと」
たったそれだけの言葉が、
何よりもあたたかかった。
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