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李玖は駆け寄ると、
茉耶の袖をそっとめくった。
私は腕を引こうとしたけど、
李玖はそれを許さなかった。
息が荒く、裸足の足は擦りむけて、
血がにじんでいる。
「どうしたこれ……?」
その言葉に、茉耶はゆっくり顔を上げた。
暗がりでもはっきりわかる。
泣いてないのに、泣きそうな目。
「……見ないで」
小さな声がこぼれる。
「んなこと、できるかよ」
李玖はそう言って、そっと目をそらした。
でも手は、
そのまま茉耶の腕から離れなかった。
「……誰にも言わないで。秘密にして
……お願い」
崩れ落ちるように、茉耶が言った。
声が震えて、泣きそうだった。
でも、涙はこぼれなかった。
李玖はしばらく黙っていた。
でも、
その沈黙が責めるものじゃないってことを、
私はなぜか分かった。
「分かった。誰にも言わない」
静かに、でも強く言った。
「……でもな、茉耶」
李玖はポケットからスマホを取り出して、
画面を茉耶に向けた。
「俺の番号、今でも一緒。前におまえが登録してたやつ」
「……」
「何かあったら、すぐ電話しろ。どこにいたって、助けに行くから」
息が詰まりそうになって、茉耶は顔を伏せた。
「……ほんとに、来てくれる?」
「当たり前だろ。……おまえのこと、ほっとけるわけない」
その一言で、
茉耶の心の中に積もっていた氷が、
少しだけ溶けた気がした。
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