p.2


夕食時のこの時間。




私のうちでは、モノの壊れる音と、




怒鳴り声が壁を震わせていた。




「もう、やだ...」




誰にも聞こえないつぶやき。




私はそっと、部屋のドアを開けて




玄関に向かった。




「おい...どこに行くんだっ」




靴を履く時間すら惜しかった。




ただ、ここから離れたかった。




裸足のまま、その声から逃げるように、




夜の街へ駆けた。




アスファルトの冷たさが、皮膚を刺していく。




それでも、足は止められなかった。




「茉耶?」




走り続けた先で、名前を呼ばれて、




思はず立ち止まる。




そこにいたのは____李玖だった。




街灯の下、少しだけ伸びた前髪の奥から。




真剣な眼差し。




気づけば、私の手は震えていて、




「なんで....」




言葉の続きが出て来なかった。




李玖の視線が、




袖から少しだけはみ出た腕に落ちる。




そこに、紫色に変色した痣があることに、




気づかないことは不可能だった。




「お前、それ....」













____秘密は夜にあっけなく崩れた。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る