やっぱり、君が好き。(旧君に逢いたくて。)

永瀬柚乃

秘密と嘘。

p.1

教室には、明るい笑い声が満ちていた。




春の陽ざしが窓から差し込む午後。




クラスメイトたちは、




他愛ない話で盛り上がっている。




茉耶まやってさ、あの時絶対わざと先生に

言ったでしょ〜!」




「え、違うし!マジで天然だったんだけど!」




「いやいや、あのタイミングであれは狙ってるって〜!」




そんなツッコミにも、笑って肩をすくめる。




明るくて、誰とでも仲良くできるタイプ。




でも。




(今日、バレてないよね……)




心の中で、そっと確認する。




長袖のカッターシャツ。




その上に羽織ったカーディガン。




気温は高いけれど、絶対に脱げない。




袖の中に隠された、青紫の痣。




鏡を見なくても、そこにあるのがわかる。




「ねえ、今日カーディガン暑くない?」




「ううん、冷房効いてるから大丈夫!

ちょっと寒がりでさ〜」




笑顔のまま、いつものようにごまかす。




……その瞬間だった。




「まだ、暑くないのかよ」




不意に聞こえた低い声に、




茉耶は肩をびくりと揺らす。




振り向けば、窓際の席から立ち上がった李玖りくが、




じっとこちらを見ていた。




「李玖くん、めずらし〜。こっち来たの?」




誰かが軽く声をかける。




でも李玖は応えずに、




視線だけを茉耶に残して、




無言で歩き出す。




「……なにあれ」




笑う友達の声の中で、




茉耶だけがうまく笑えなかった。




李玖とは、幼なじみだった。




小さい頃は、よく一緒に遊んでいた。




家が近くて行き帰り一緒になることもあるけど




学校ではあまり話さない。




今は、いい距離感の幼馴染だ。














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