3 突然の再会

彗兄に抱きしめられたまま困惑していると、ふと視線の刺さるような気配に気づいた。

恐る恐る周囲を見渡すと――先ほどの比ではないほどの人、人、人。


……そ、そりゃそうだよね。

トップアイドルがいきなり飛び出してきて、一人の女に抱きついたんだから。


「け、彗兄! 離して!」


胸をグイッと押しても、彼はびくともしない。

え、どんだけ鍛えてるの……?


「みんな見てるってば、彗兄!!」


ようやく周囲の熱気に気づいたのか、しぶしぶといった様子で腕をほどく。

ゆっくりとあたりを見回し、ようやく“現実”を認識したらしい。


「ケイ?……その子、誰?」


メンバーのひとり、ウルフヘアーの美少年・イクが、眉をひそめながら訊ねてきた。

視線を感じて顔を向けると、ジッとこちらを観察するように見つめてくる。

なんか、気まずい。慌てて彗兄の方に視線を戻す。


答えないで、と心の中で願ったその瞬間――

肩をぐい、と引き寄せられた。


「この子は……6年前、亡くなったと思っていた妹だ」


彗兄の声がよく通る。撮影クルーにも、ファンたちにもはっきり届くように。


「ずっと探していた妹だ」


正直に言っちゃうんだ……。

戸惑う私を横目に、彗兄は今度はファンたちの方を見渡す。


「こいつは、守るべき俺の家族だ。だから、今日のことは――君たちと俺の“秘密”にしてほしい」


一瞬、会場に静寂が流れる。

でも次の一言で、それは破られた。


「今日の動画は、消さなくていい。だけど……ネットにアップしたりしたら――どうなっても知らないからね?」


にやり、と口の端を吊り上げる、ドSな微笑み。


「「「「ぎゃあああああああ!!」」」」


悲鳴にも近い歓声が響いた。

「約束するー!」「再会できてよかったねー!」とファンたちは興奮状態。


……すごい、これがトップアイドルの力か。


たしかケイは“兄貴枠”で、普段は優しいけど時折見せるドS感がファンの間で超人気――とか、聞いたことがある。

そのドS兄貴が、今私に向かって優しく微笑んでくる。


――ああ、本当に彗兄だ。

あの頃の優しくて、まっすぐで、頼りになった兄のまま。


嬉しい。生きてた。

でも――


また……また彗兄を失ってしまう。

そんな考えが頭をよぎった瞬間、体の震えが増し、血の気がすうっと引いていった。


「……みこ!? みこと、大丈夫か!?」


彗兄が焦ったように腕を掴む。

その手を振りほどきたくても、もう力が入らない。


頭がぼんやりして、視界がにじむ。


「……やめ、っはなして……」


「みこ! ……みこと!!」


お願いだから私をほっといて


彗兄の腕に抱かれながら、私はそのまま――

意識を、手放した。


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