2 shine
スーパーに着いたはいいが、なぜか人がやけに多い中。
繁華街で何かイベントでもあるのだろうか?
少し気にはなったが、人混みは苦手だ。
さっさと買い物を済ませて帰ろう。
野菜コーナーでキャベツを手に取ったとき、後ろから聞こえてきたおばさまたちの会話が耳に入った。
「……ねぇ、知ってます?今日、あの『shine』が収録に来てるらしいわよ」
「えっ、そうなんですか?だから今日はこんなに人が多いんですね〜。うちの娘も大好きで」
「うちもです〜。娘の影響で私もちょっとハマっちゃって……」
なるほど、混雑の理由はそれか。
『shine』――。
誰もが知る、今をときめく超人気アイドルグループ。
全員がビジュ担と呼ばれるほどのルックスを持ち、歌もダンスもトップクラス。まさに“伝説”と称される存在だ。
そんな彼らが来てるなら、そりゃ人も集まるだろう。
……とっとと帰ろう。
必要なものをささっと買い集めて店を出る。
ふと足を止め、繁華街へ続く道に目をやった。
――あの道を通れば、来たときの半分の時間で帰れる。
けれど人混みは避けたい。
「………行くか」
あと30分で、楽しみにしていた猫特集の番組が始まるのだ。
予約してるけどやっぱりリアタイで見たい。
……猫のためなら、人混みも我慢してやる。
覚悟を決めて、人の波の中へ足を踏み入れた。
やっぱり人が多い。
歩けなくはないけれど、ぎりぎりストレスが勝つレベル。
ああ、やっぱり判断を間違えたかな。
でも頑張ろう。猫ちゃんが待っている。
繁華街の中央あたりまで来たとき、ひときわ密集している一角があった。
……ああ、あそこか。撮影現場。
若い女性たちが、うちわやら一眼レフやらを抱えて押し寄せている。
すごい熱気。……すごい執念。
呆れ混じりに眺めていたその時――
「うわっ」
ドンッと誰かにぶつかられた。
「おいっ」と声を上げる暇もなく、大量の人波に押されて、気づけば私は――撮影現場のど真ん中にいた。
「っ、やば……」
周囲のスタッフが一斉にこちらを見ている。視線が痛い。
やばいやばいやばい。
ひ、人に見られている!
「……す、すみませんでした!」
逃げるようにその場を離れようとした、そのとき。
誰かとぶつかった。
「す、すみませんっ」
顔を見ずに頭を下げる。
けれど、その相手が発した言葉に、全身が凍りついた。
「……いえ、お怪我はありませんか?」
「え、あはい。大丈夫です」
人と関わるのが怖くて震える腕を隠し顔を上げると、目が合った。
「………ぁ」
――あの国宝級の美貌。
テレビで何度も見た、shineのメンバー・ケイ。
その彼が目が合った瞬間驚きに目を見開き、こちらをじっと見つめていた。
「みこと?」
「は?」
なぜこの人は私の名前を?
え、知り合い?
でもこんな顔は一度見たら忘れないだろう。
「みこと、みことなんだね!?」
そう言って、彼は目に涙を浮かべながら、私に抱きついてきた。
思わずピシリと固まった。
え、何この状況。
だんだんと体全体が震えてきている。
「あ、あの……離して、ください!」
「みこと、会いたかった!」
ダメだ全然聞いてない。
ど、どうしよう、ほんとにどうしよう。
と、とにかく
「あの、ど、どこでお会いして?……」
そう問うとすこし寂しげにケイは微笑んだ。
その顔になんだか懐かしさを感じた。
「俺だよ!みこ、彗心だよ!お前の兄だよ!」
……え?
嘘だ。ありえない。だって!
「……けい、にぃ……?」
「……っ! そうだよ、みこ!」
6年前――死んだと思っていた、三つ上の兄。
彗心(けいしん)が、目の前にいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます