第六章:僕が来た理由

――Xは、去った。


だが、僕はまだ1989年にいる。


「これで終わりじゃない。

じゃあ、僕がこの時代に来たのは……Xを止めるためだったのか?」


そう考えてみても、何かが引っかかる。

それだけじゃ、腑に落ちない。


Xを止めただけで、僕が元の時代に戻れるような仕組みがあったとは思えない。

実際、何も変わっていない。


むしろ――これからが始まりなのではないか。


「……戻る方法を、探さなきゃ。」


僕は、唯一頼れる人間のもとへ向かった。


牧田の部屋

「……なるほど。そうだったのか。」


牧田健一は、静かに頷いた。


中川は、自分が未来から来たことを打ち明けた。すべてを。


驚かれることを覚悟していた。なのに――牧田は、微笑みさえ浮かべた。


「正直、君がこの時代の人間には思えなかったよ。言葉の選び方、知識、視線の奥にある何か……なんて言えばいいかな、時代に囚われてない空気をまとってる。」


「……信じてくれるんですか?」


「信じるよ。Xの存在も実際に目にしたし、未来から来たという可能性を否定する理由は、今の俺にはない。」


牧田は、机の引き出しからノートを取り出した。


「実はね、中川くん。君と話すうちに思ってたんだ。

君がこの時代に“来てしまった”んじゃなくて、“何か意味があって来た”んじゃないかって。」


「意味……?」


「ああ。Xを止めたのは結果論であって、本当は君自身の中に“理由”があるはずなんだ。

君自身の“音楽”とか、“夢”とか、“何か取り戻したいもの”とか……そういう、魂の話だ。」


中川の胸が、どくんと高鳴った。


――僕は、なぜここに来たんだろう。


ただ未来に帰りたいだけじゃない。


何かを見つけるために、ここにいる。


牧田は言った。


「元の時代に戻る方法も、一緒に探そう。

だけどその前に――君自身がここで何を成すべきか、見極める必要があると思うよ。」


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