第五章:カラフルドリーマー
「……僕には、もう時間がないんだ。」
Xは静かに言った。
「時空警察が、僕を追っている。もう、長くは居られない。」
その声には、どこか諦めにも似た静けさがあった。
「だから、最後にもう一度だけ――感動を味わいたかった。あの、震えるような、心が燃える瞬間を。」
中川は黙って耳を傾けていた。
「イカ天のプロデューサーから話をもらったとき、決めたんだ。最後のプロデュース作品として、僕が大好きだった曲を世に出そうと。GLAYの『口唇』を。」
そう語るXに、中川はゆっくりと、言葉を紡いだ。
「……それで、いいんですか?人の作品で、あなたの人生の最後を飾ることが。
僕は……音楽を愛する者として、あなたのオリジナル曲が聴きたいです。」
Xは視線を上げた。仮面の奥、その瞳に揺れるものを中川は感じた。
「……お願いします。
最後になるなら、あなたの魂のこもった楽曲を、雷たちに歌わせてあげてください。」
沈黙が流れた。
時が止まったかのような静寂の中で、Xは少しだけうつむき、そして――微かに笑った。
「……わかった。」
それは、わずかに震える声だった。
「すにーかーずのデビュー曲を、僕の幻のデビュー曲に変更する。
タイトルは――『カラフルドリーマー』。僕が、若い頃に作詞作曲編曲まで全部手がけた、僕のすべてを込めた曲だ。」
「ありがとうございます……!」
中川は、心の底からそう言った。これはXが音楽に懸けた、最後の賭けだった。
数週間後
『カラフルドリーマー』は、イカ天出演直後から注目を浴び、ラジオやテレビで取り上げられるようになった。
伸びやかで情熱的な旋律、誰もが口ずさみたくなるサビ、そして――生きることへの希望を歌った歌詞。
それは、どこか懐かしく、そして新しかった。
雷の声が、それを見事に表現していた。
音楽雑誌は書いた。
「これは90年代の香りがするようでいて、今の若者の心にも刺さる“奇跡のデビュー曲”だ」と。
だが――その成功を、Xが目にすることはなかった。
レコーディング後、突如スタジオを訪れた黒服の2人の男女。彼らは名乗らなかったが、中川にはわかった。
時空警察。
Xは静かに頷き、何も言わずに仮面を外した。
一瞬だけ、仮面の奥の素顔が、中川の目に映った。
その顔には、悔いではなく、確かな満足の色があった。
「ありがとう。君に会えて、よかった。」
それが、Xの最後の言葉だった。
Xの残した『カラフルドリーマー』は、すにーかーずの代表曲となり、90年代の音楽シーンに風を巻き起こしていく。
中川は思う。
魂を込めた音楽は、時代を超える。
そして彼もまた、自分の音楽を、この時代で奏で始めようとしていた――。
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