第二章:雷の夢と、未来の旋律
ライブ後、屋上に上がった中川と雷。冷たい風に吹かれながら、缶ジュースを片手に語り合う。
雷は言う。
「最近の音楽、なんかダサいと思ってさ。俺たちで変えてやろうって思ったんだよね。」
雷のバンド「すにーかーず」は、イカ天(イカすバンド天国)の影響で組まれた。
ボーカルの雷、ギターのタクト、ベースの甚太――皆、同じ高校の仲間だ。
「親には言われてんのよ。『成績落ちたらバンド禁止』って。だから、勉強もマジでやってんだぜ?」
中川は驚くと同時に、胸が締めつけられる。
自分が家庭や将来の「現実」の重圧で、音楽の夢を諦めたことを思い出す。
「すごいよ、雷……お前は、ちゃんと夢を追えてるんだな。」
「あん? なに言ってんだお前、急にオッサンみてぇなこと言って(笑)」
冗談を交わしつつも、ふたりの間に確かな友情が芽生え始める。
雷がふと、ポケットからカセットテープを取り出す。
「これ、すげぇんだよ。最近、プロデューサーXってやつの噂があってさ。そのデモ。名前も顔も不明、でも曲は超カッコいい。」
デッキにセットし、音を流す。アコースティックギターのイントロ――そして始まる軽快なメロディ。
中川の顔色が変わる。
「……これ、『夏色』だ。」
2000年代を代表する名曲、「ゆず」のデビュー曲。しかし今は1989年。
この時代には、存在しているはずがない。
「この声……違う。『ミカン声』? この時代にはいないグループだよ……」
雷は言う。
「なんか、Xってやつ、どっかの地方から急に出てきたんだってよ。音源は全部カセット。顔出しなし。ライブにも出ない。」
中川の中に、ある仮説が生まれる。
――もしかして、俺だけじゃない。この時代に来た“未来人”が、他にもいるのか?
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