第12話
米軍は日本国内からオリエント帝国の要請にしたがって撤退していったが、唯一の例外としては沖縄があった。
太平洋は、もはやアメリカの内海ではなかった。
オリエント帝国海軍――その漆黒の艦隊が、まるで神話の龍のごとく海面を滑りだした。ついに、米軍とオリエント軍は戦闘を開始した。
「敵艦隊、距離180マイル、接近中!」
アメリカ第七艦隊のフラッグシップ「カール・ヴィンソン」の戦闘情報センターに、緊張が走った。オリエント帝国の主力艦隊が、衛星偵察をかいくぐり、突如として出現したのだ。電子戦能力、ステルス技術、空中発艦の超音速巡航ミサイル――どれも従来の戦術を通用させなかった。
「ミサイル接近!」
アラートが鳴るより早く、青白い閃光が艦橋を貫いた。艦体が裂けるような音がして、通信が途絶える。次々と巡洋艦が沈み、空母は飛行甲板を焼かれて行動不能に陥った。
マリアナ沖海戦は、開戦から僅か27時間で終結した。残されたのは、炎に包まれた米艦と、悠然と去るオリエント艦隊の影であった。
数日後、グアム、サイパンはオリエント軍に占領された。
「氷原の民を怒らせてはならぬ」と言われたオリエント北海艦隊は、極寒のベーリング海を無音で滑るように航行した。氷原に設置された米軍レーダー施設は謎のジャミングにより使用不能となり、制海権、制空権を奪われたアラスカは3週間でオリエント軍に制圧された。
アメリカ空軍が反撃のために飛ばしたB-2爆撃機は、北緯65度付近で謎の電子障害により墜落。これ以降、米軍はアラスカ上空への飛行を一切禁じた。
オリエント帝国は、アラスカ全域に暫定軍政庁を設置。地元の先住民指導者たちと協定を結び、「白人支配からの解放」を掲げて占領を正当化した。
「もはや、これまでだ」
米国大統領は椅子にもたれかかり、静かに告げた。アラスカを失った現実。国際世論もアメリカに冷淡で、欧州連合は中立を維持。アジア諸国の多くはすでにオリエントに忠誠を誓っていた。
最終的に、スイス・ジュネーブで「太平洋平和協定」が締結される。アメリカはアラスカの割譲を認めた。交換条件としてハワイ及び米本土への侵攻停止と、商業航路の一部維持が認められた。
オリエント艦隊は、いまや太平洋の主だった。
ロサンゼルス沖に停泊するその影に、誰も逆らうことはできない。
米断 日本が危ない 羊太夫 @Hitsujidayu
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