第11話
そのとき、首相補佐官が西谷総理に密かに耳打ちした。
「総理……今、国連での支持も望めません。アメリカは事実上中立を宣言しました。EUも静観の構えです。日本単独での交戦は、現実的ではないかと……」
数日後、米軍は日本各地から徹底を開始した。入れ替わりにオリエント軍が進駐していく。
そして、とうとう――
日本政府は、オリエント帝国に対して“限定的降伏”を受け入れると発表した。
政権の一部移譲、国家機関の監査権、主要港湾の管理権の一時委譲――そして、「戦犯」の選定。
数日後。深夜。瀬川俊明農林水産大臣の官邸に、武装したオリエント兵の一団が現れた。
「瀬川大臣、あなたには“備蓄米の乱用と国家資源の浪費”の責任があります。オリエント帝国法に基づき、拘束します」
「……すべて、計画だったのか。最初から」
「その通りです。あなたの正義感が、我々に道を開いてくれました」
瀬川は、手錠をかけられながら空を見上げた。
――あの時、もし輸入米に踏み切っていれば。
――もし、備蓄米の出庫先を厳しく監視していれば。
――あの電話の警告を、もっと早く信じていれば。
だがもう遅かった。
「コメの国」は、食卓から主権を奪われた。
拘束された瀬川を乗せた輸送機が、北方の空へと飛び立つと同時に、日本列島には新たな「統治官」の名が公表された。
「本日より、帝国顧問団が日本の農政と経済を監督します。
飢餓と混乱を乗り越えるためには、君たちの協力が必要だ。
この占領は、君たちを救うための慈悲である――」
スピーカーから響くその声に、誰も拍手を送らなかった。
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