違法冷蔵庫〜道路交通法の限界〜

北 流亡

違法冷蔵庫

「私は冷蔵庫です!」


 その高さ2mの白い直方体は自信満々に名乗った。

 三井は困惑する。公道を120kmで爆走する物体を取り締まったら、冷蔵庫だったのだ。


「ところで、私は何で止められたのかな?」

「そ……速度超過で……」

「速度超過? 私は冷蔵庫なのに?」


 冷蔵庫は首を、いや、ボディを傾げて言う。

 ぐうの音も出なかった。

 三井は、パトカーの助手席に座る先輩に目を向ける。目を逸らされる。道路交通法に冷蔵庫に関する条文は無い。


「いや……やっぱり行って良いです」

「なんか手間取らせちゃったみたいですみませんね」


 冷蔵庫が会釈する。ごとりと、黒い塊が落ちる。拳銃。しかも3つだ。開いた扉から落ちた。

 目、いや扉と視線が交わる。しばらく、見つめあっていた。

 冷蔵庫はじりじりと下がる。三井はじわじわとにじり寄る。飛び出す。三井の腕が空を切る。弾けるように、冷蔵庫は逃げ出した。


「おい、追うぞ!」

「は、はいい!」


 冷蔵庫の背中がどんどん遠くなる。三井はアクセルを全力で踏む。そして強く祈った。

 どうか、拳銃不法所持の冷蔵庫を取り締まる法律がありますように、と。

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