さらば担当医、さらば消化器内科
三月の半ば頃の話である。
実はこの時には症状が改善しつつあった。嬉しい。なんとか自力で治癒したと言うよりは、この時点で通っている精神科クリニックで処方してもらっているミルタザピンなる抗うつ剤の効果が発揮されたおかげだと思う。いや本当に。薬って大事なんだなと草森くんは思いました。
さてこの日は精神科ではなく、十二月から通っている消化器内科の月一検診の時間である。
D病院にもすっかり通い慣れた。実はバス停から十五分ほど歩いて通っていた。メンタルがとにかく最悪で頭がずっとぼんやりしている超危険な状態の時も、車がビュンビュン走っている国道を横切りながらD病院に向かっていた。
よく身投げしなかったな……と今は思う。振り返ってみると、不眠で眠れず胃もたれで食べられず、集中力が微塵もなくて読書も映画鑑賞も執筆も、とにかく何もかもできなかったあの時のあまりの辛さに耐えかねて、死ぬ方がマシかも!? と閃いてしまい自○してもおかしくなかったかもしれないな……と。
ネガティブな話をしてしまい、申し訳ない。今は思い詰めることはないのでご安心を……。
消化器内科の話に戻すが、車ビュンビュン大通りを通り抜け、D病院に到着した。再診受付もすっかり慣れたものである。再診用の機械に保険証と診察券を放り込み、スタッフさんに案内されるまま消化器内科の受付へ。そしていつも通りに待合室の椅子で待つ。
この時点で、おや? と既に思った。
人が少ないのだ。私は毎回月曜日に診察予約が入っていたのだが、それはA先生の診察曜日が月曜だったからだ。もう一つ水曜だか木曜だかもあったらしいが知らないので割愛する。
とにかく、待っている患者数が前までより少ない。
冬も越えてノロなどが減ったのかな? とか適当に考えていたところ、かなり早く番号の呼び出しがかかった。
診察室で顔を合わせたドクターは、どう見てもA先生ではなかった。
「草森さんですね、初めましてこんにちは!」
「あ、こんにちは……初めまして」
「A先生なんですけどね」
「はい」
「退職されました」
「はい?」
A先生のチャームポイントでもあった独特なまばたきが脳裏をよぎった。あのぱっちんぱっちんが……もう見られない……?
返す言葉に困っていると、代理であるという男性医師は私の症状について尋ねてきた。
「ああ、えっと、実はかなり快方に向かっているというか……」
「おお! いい体ですねえ!」
「こちらで処方してもらっていたアコファイド、もう飲んでいなくてですね」
「おお! 無用の薬になりましたか!」
芸人コンビの相方か?
合いの手に若干引きつつ更に説明した。メインで診察を受けているのが現時点で精神科であること、そこで処方してもらったとある胃薬(後日に精神科心療内科項目、婦人科項目にて詳細を記載)が効いているようで食事ができていること、同時に処方してもらっているミルタザピンが睡眠薬としても抗うつ剤としても効能を発揮していると思われること。
相方医師はうんうんと頷きながら「なるほどねえ」「はいはい良いですねえ」「うーんわかりました」と相槌を打っていた。
私の説明を聞き終わった後に、弾ける笑顔と伸びやかな声で元気に言った。
「よし! 消化器内科の通院と薬の処方をやめましょう!」
こうして私の消化器内科通院は最後となった。そうなるとD病院に来る用事は、脳神経外科項目で話している脳の謎の塊についてのみになる。一年後だ。バス停から十五分歩くのも、ひとまずこれが最後である。
ちなみに機能性ディスペプシアは完治しない病気らしいのでおそらく寛解ということになってるだろう。
もしまた胃の不調が起こった時は患者カルテが保管されているD病院にまた来ようと思う。
何はともあれ、消化器内科項目は一旦の区切りだ。
退職しどこかへ行ったA先生、最後に診察をしてくれた相方先生、十二月から三月まで相手をしていただきありがとうございました。
胃腸くん、この先もぜひ元気でいてね!
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