どんどん悪くな〜る

 機能性ディスペプシアに対応して作られたらしい薬はアコファイドという名前だった。説明を読むに、副交感神経が優位になる薬らしい。

 一応軽く説明を挟んでおくのだが、副交感神経と交感神経というものが人間の中にはある。副交感神経がリラックス系の神経、交感神経がアクティブ系の神経だと考えておけば良いと思う。

 どう作用してどう改善していくのかは結局よくわからなかったが、処方してもらったのでアコファイドを飲み始めた。

 初日は効いた、ように思った。お粥ですらゴリゴリにもたれていた胃はおとなしく食物を包み込んだ。

 もう、めちゃくちゃにたいへんに物凄くこの上なく嬉しくて、Twitterにも食べられた!とツイートした記憶がある。

 このまま治っていくんだとも思って、一気に気分が良くなった。


 ところが数日後、私は不眠になってしまった。


 不眠。

 消化器内科項目からずれるように思うが、結局あらゆる症状はほぼ数珠つなぎだったので記しておく。

 不眠(睡眠障害)と言ってもいくつか種類があり、私が悩まされ、現在もまだ引きずっているものは早朝覚醒と呼ばれる不眠だ。最悪なので覚えてほしい。何時に寝ようが午前三時から四時頃に必ず目が覚め、二度寝がまるでできない。

 布団から出たところで真冬である。辺りは真っ暗で息が白く染まる寒さで、電気代高騰の現代では下手に電気をつけて暖房をつけてとするわけにもいかず、布団の中で朝が来るのをじっと待つしかできなかった。

 この早朝覚醒、かなりの睡眠不足を引き起こした。

 そして胃もたれを一気にぶり返させた。

 寝不足状態で朝食を食べて胃がなんとなくもたれた経験のある方はいるだろうか? あれである。睡眠が足りないために臓器が正常に動かないのだ。


 アコファイド、効いたと思われたのははじめだけだった。

 次に消化器内科を訪れた私はA先生に不眠になってしまってアコファイドがあまり効いてはいないと話し、薬を変えて欲しいと頼んだ。

 A先生はぱちぱちまばたきをしながら首を振った。


「僕ね、薬をころころ変えるのはあんまりよくないと思うんだ」

「え、でも、効いてなくて……」

「あと二週間様子見ましょう」

「はい……」


 この時は不眠だし胃もたれだし耳鳴りだし常にぼんやりするし動悸が目立つしし座っていると息苦しいしと散々な体調だった。ぜんぜん言い返したり頼みごとをしたりができなかった。

 あと二週間もこのまま……? そう思ってメンタルがどんどんまずくなっていっていた。


 しかし一つだけはファインプレーができた。

 私はなんとか気力を振り絞り、A先生にとある症状を伝えた。


「先生、今、喉がずっとゴロゴロしていて、違和感がずっとあるんですけど……」

「おお、機能性ディスペプシアっていうか、メンタル疾患寄りの症状だね」

「やっぱりそうなんですか……」

「多分ね〜……」


 A先生は無駄に含ませながらマウスをクリックしてモニターを眺めた。


「喉の違和感にめちゃくちゃ効く漢方……飲む?」


 飲まないわけねえだろ! と元気な時なら言っていたかもしれない。

 当然処方してもらった。帰宅次第すぐに飲み、漢方は効果がゆっくりだと聞いていたが、一週間もすれば喉の通りが良くなってきた。

 様々な症状に苦しんでいた私は喉の違和感が消えただけでも本当に本当に嬉しかった。


「漢方……馬鹿に出来ひんな……」


 私は感激した。

 これが未だに飲み続けている漢方薬、半夏厚朴湯はんげこうぼくとうとの出会いである。

 そして消化器内科で処方してもらった薬でまともに効いたのは半夏厚朴湯だけである……。

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