機能……なんだって?

 診察室で待ち受けていたA先生はぱちぱちとまばたきをしながら胃カメラの映像と画像をモニターに表示した。


「綺麗だねえ」

「胃の……中が……?」

「うん、綺麗だ」


 褒められている……。

 でもたしかに、胃の中自体は綺麗だと思われる。ぶつぶつとかないし穴も空いていないし健康そうなピンク色だ。

 あれっ? じゃあ何がダメでこんなにも胃がもたれているんだ……?

 頭に大量のハテナを浮かべる私の前にA先生はメモ用紙をおもむろに置いた。多分なんですけどねえ、と言いながらサラサラっと文字を書き付けた。

 機能性ディスペプシアと書かれてあった。


「機能……?」


 ハテナを浮かべたままの私に向けてA先生は首を縦に揺らす。


「機能性ディスペプシア。わかりやすく言うとね、神経性の胃炎です」

「そう言われると……なるほど……?」

「その可能性が高い、ということなので、確定ではないけどね」

「そうなんですか……?」

「はい、まあでも十中八九そうだとは思います。専用のお薬があるので出しますね」


 A先生はぱちぱちとまばたきをしながらだかだかとキーボードを打つ。患者の状態を診察と同時に書き残すのってたいへんそうだなあと私は思った。


「じゃあそうだねえ、投薬しながら様子を見ましょうか」

「あ、はい」

「あと念の為、他の病気によって胃もたれが起きていないかどうかの確認のためにCTを撮りましょっか。枠とっておくね」

「あ、はい」

「ではまた一週間後にCT撮影のために来てください!」


 この時の私はまだ不眠に悩まされておらず、多少呑気だった。A先生のまばたきの回数を数えていたし、有給余ってるから二週間くらい休職してゆっくり休めば治るだろ〜とか考えていた。

 善は急げということで病院を出たあとにすぐ職場へ行った。機能性ディスペプシアとやらになったので二週間ほど休みたいと話をするとあっさり受理されたし、上司はかなり心配してくれた。


「じゃあ草森さんは、年末までお休みということで……」

「はい、ありがとうございます」

「しっかり休んでくださいね。良いお年を」

「あっ、良いお年を」


 そう、物凄く年末だった。

 私は家に帰りながら年末をゆっくり過ごせてラッキーとか考えていたが、ダメだった。

 二ヶ月、三ヶ月ほど続いた本当の地獄はここからだった。

 胃もたれは治らず、不眠症を患って三〜四時間ほどしか眠れず、動悸が止まらなくなり、喉が常に異物感でごろころし、耳鳴りが頻繁に起こるようになった。


 そして何度も言うが、物凄く年末だったのだ。

 病院が……まるでどこも空いていないのである……。

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