貧乏人の半年後
S先生は私のMRI画像を表示しながら色々と説明をしてくれた。
しかし私はこの時には本当に体調が絶不調であり、まともに話を覚えていられる状態ではなかった。
ふらふらの頭と体を椅子の上に押し留めつつ、映されている脳の異常は不眠に関係があるのか聞いた。S先生ははっきりと首を振った。
「症状が出るとすれば頭痛ですね」
「頭痛……じゃあ不眠は……」
「この塊には関係ありません」
関係ないんだ……じゃあ今のメンタル疾患じみた症状はどうすれば……ゆっくり寝たい……楽になりたい……いつまでこんな状態でいなあかんねん……。
私がぐるぐるしている間にS先生は更に話を続けた。
とりあえず現状は様子見であること。
何かの異常が起こる可能性は一応低いこと。
しかしこの先ずっと安全とは限らないこと。
定期的にMRIを撮り、経過観察する必要があること。
ここで私は手を上げた。
「お金が無いです、MRIを撮るお金が……」
この時点で私はMRI、胃カメラ、レントゲン、血液検査、CTと様々な検査をやりまくっていた。ついでにオンラインのメンタルクリニックを睡眠薬のために利用しており、とにかくジャバジャバ出費していた。
S先生は困った顔をしたが、色々と資料を見たあとにCTでも大丈夫だと言った。MRIよりはちょっと安いらしい。
私は頷き、半年後にCTという予約を入れて、この日は帰った。
半年の間にそれはもう色々な診療科で色々な診察や検査があったがここでは割愛する。
脳での謎の塊が発見された時から半年、私はD病院へやってきた。これを書いているのが当日だ。(2025年6月7日です)CTは滞りなく撮影が終わり、土曜日なので予約患者しかいないらしく診察の呼び出しも早かった。
S先生はお元気そうだった。私を覚えていらっしゃるかは謎だったがにこりと微笑み、CTで撮った私の脳の画像をパソコン画面に映し出した。その隣は前回MRIで撮った脳の画像がある。マイブレインのビフォーアフター。特に何も変わってはいなかった。
S先生もそう仰った。
「肥大化もしてませんし、前回と変わりないですね」
「みたいですね……」
「MRIでないと映らないかとも思いましたがCTでも確認可能です」
「おお、良かった。じゃあ……もう来なくてもいいとか……」
「いや定期的には見て頂いた方がいいですね」
ここに来ても金を渋る私にS先生は苦笑する。
「次も半年後にCTにしましょうか。被爆もおそらく半年なら……」
「えっ被爆?」
「はい、CTは放射線なので」
「すみませんMRIにします、いくらですか?」
私は……カスである……! 放射線が余裕で怖かった。そんな私を見てS先生は叱られた親戚の子供を見るような目をし、助手の方にMRIの値段を聞いてから向き直ってきた。
「半年でなんの変化もありませんでしたし、一年に一回MRIでいかがでしょうか? もしも激しい頭痛などのひどい症状が起こった時はすぐに来て頂く方向で」
「それでお願いします、ありがとうございます」
こうして診察室を後にした。
次にS先生に会うのは一年後、2026年6月7日である。
それまでに他の症状が寛解していたり、脳に異常が起こらないまま過ごせていたり……とりあえず去年の十二月から今年の四月辺りの最悪な状態に戻っていなければ良いなと思いながら帰宅して、これをせっせと記した次第である。
脳神経内科、脳神経外科については一先ずはこれで終わりだ。
一年後にまた記す、かもしれない。
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