第4話 シルヴィアは逃げたけど


シルヴィアは泣きそうだった。


アントニオと一緒に脱出したのはいいのだが、結局人里離れた森の中では、人喰い村の村人に捕まるのにも、さほど時間はかからなかった。


村人たちは、今日は宴だとワイワイ騒いでいる。

なまじっか文化人類学者などやってるから、奴らの会話が理解できすぎて辛い。

アントニオはというと、となりで気絶している。


「もう嫌!」

シルヴィアは叫んでいた。


村人の一人が近寄ってきて、私を縛りあげようとしてきたので、私は全力で抵抗していた。


私は叫んだ。

「嫌~っ!誰か!誰か助けてぇ~!」


その時である。


天空から黒い影が落ちてきた。

それはだんだんと大きくなってきて、シルヴィアたちの少し前方へと着陸した。


それは、全長が10mはあろうかと思える大きな体で、肌の色は赤く爬虫類のような外見をしていた。蝙蝠の羽根を大きくしたような翼を持ち、鋭い牙と爪をピカリと輝かせていた。


……私はそれを見た事はないが、それが何かは知っている。


ドラゴン。

いや、赤いのでレッド・ドラゴンか。


「助けが来たのかと思ったら、捕食者だった?」

シルヴィアは、自分のことをつくづく運の悪い女だと思った。


私がそんな衝撃の連続に倒れそうになっていると、空からこんな声が降って来た。


「あなた、助けが必要かしら?」


そう声が降ってきたかと思うと、ヒラリと一人の美少女がふわふわと、浮いたようにゆっくりと降りてきた。そして、私の前に着地すると、ニコリと笑った。その美少女は、見たことのない青い民族衣装をまとっていて、自分の身の丈ほどある大きな杖を持っていた。そしてその杖には大きな宝石が嵌め込んであって、その石は赤く光輝いていた。


「助けてください!この人たち、私を食べようとしているんです!」


私は必死になって助けて欲しいとお願いした。すると、美少女が首をひとつ縦にふると、呪文を詠唱しはじめた。やがて、杖の宝石が明るく輝きだすと、その美少女はその杖を村人たちへと向けた。


「雷魔法:第三階梯 サンダーァ・ボルトォ!」


彼女の掲げた杖の先端から、眩いばかりの雷撃が四方へ飛んだかと思えば、一瞬のうちに村人全員が地面に突っ伏していた。


「す、すごい……」


私は、見たこともない”技”に驚きを隠せなかった。それは、科学では説明できない不思議な現象だった。


私は、彼女の元へ、倒れ伏すように駆け寄っていった。


「どこのどなたか存じませんが、危ない所をありがとうございました」


私はそう言って頭をさげた。


「いやいや、礼には及ばないわ。あなたこそ大丈夫だった?」


「はい、おかげ様で助かりました。私の名前はシルヴィア。こっちで気絶しているのがアントニオと言います」


「そう。私の名前はアイリス。アースガルド随一の大魔法使いにして、王国では大賢者の称号を賜っているわ」


「だ、だ、大賢者様でいらっしゃいましたか!」


なんだかよくわからないがすごい人らしい。それにしても大賢者って……。魔法物の小説でしか目にしたことのない単語だが。


「もしかして、さっきの雷撃は、やっぱり魔法だったのでしょうか?」


「ええ、まあ初歩の初歩ですけどね」


やっぱり魔法だった!

よくわからないが、今は詳しく聞いてる暇はない。


私はとりあえずホッとしていた。


「それよりここは一体どこなのかしら?」

アイリスがシルヴィアへ尋ねた。


「えっ、ここですか?ここは、某国にある大森林の奥地としか言いようがない場所ですけど……」


「困ったわね、私、これから日本というところへ行きたいのだけれど、どうやって行けばいいのかしら?」


「えっ!日本!」


「あなた、知ってるの?」


「知ってますけど、日本といったら東方の国。ここからはるか1万キロは離れた所になりますよ」


「そんなに遠いの?あの魔法使いったら、宮廷仕えで腕が落ちたのかしら。こんな辺鄙な所へ転移させるのだから」


アイリスはそういうと、ブツブツと文句を言っていた。


シルヴィアは驚きながら聞いた。


「その魔法にそのドラゴン……それに文化人類学者の私がピンとこないその衣装。失礼ながら大賢者様は、異世界から転移してきたのでありますか?」


するとアイリスは軽く笑って、


「そうよ。本当は日本へ転移したかったのだけど、ここへ飛ばされたみたいなの」


「えーっ!やっぱりそうなんですか!」


「……でも間の悪い時に転移してきたもんだわ。昨日神罰が下ったんでしょ?神様が頭の中へ話しかけてきてたわ。昨日食べた食事の生き物にするって。おかげで彼が……彼は勇者レイクリスというのだけど、昨日ドラゴンのステーキを食べてたから、この有様ってわけよ」


「一体、どういうシチュエーションでドラゴンが食卓に……?完全に捕食する側の生き物じゃないですか!」


「いや、普通にビュッフェで出て来たのだけど……」


「異世界って、すごい食材使ってるんですね!」


そういいながら、アイリスが人の姿をしているのを疑問に思っていた。


「そういえば、大賢者様は、どうして人のお姿のままなので?」


「ああ、私?私は3日ほど食事が喉を通らなくて、何も食べてなかったのよ」


えー!そんなパターンはもあったのか。するとレッドドラゴンが長い首を曲げて顔を寄せて来た。


「ところでアイリス。日本へはどうやっていったものだろうか」


私は内心(しゃべれたんだ!)と思った。


「ここから1万キロもあるのでしょう。歩いていくってわけにはいかないわ」


「そうだな、やっぱり飛んでいくことにしようか」


「私落ちないかしら?ドラゴンに乗ったことないもの。それに、途中で変化が解けたら最悪よ」


「まあ、そうだけど……。地道に移動するのもしんどいしね。とりあえすぱぱっと飛んでいこうよ」


「わかったわ、じゃあ、出来るだけゆっくりと飛んでね」


そういうと、二人は旅の支度を始はじめた。


「ちょっと待ってください!大賢者様、勇者様お願いです!私たちも連れて行ってください!私たち、人食い村で襲われて、もう何も持っていなくて、このままでは死んでしまいそうなんです!」


レイクリスとアイリスは顔を見合わせた。


「まあ、折角助けたのに、別れてすぐ死んじゃったら、あまりにも可哀そうだわ。それに、人間の姿をしているから、レイクリス様のお手伝いもできそうだし」


トリニティは言った。


「なんでも!なんでもしますから!お願いですからここから連れ去ってください!!」


「いいわよ。私はこの世界に疎いから、あなた道案内よろしくね」

「了解しました!」


というわけで、3人はレッドドラゴン(勇者レイクリス)の背に乗って、日本へと旅立ったのであった。

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