第5話 ケンちゃんへの頼み事


カラスと共に落下したマムシのケンは、奇跡的に生還を果たしていた。


たまたま落ちた先が池だったのである。


カラスはそのまま毒にやられてしまったけど、僕は蛇だから水の中は苦手ではない。ケンは泳いで池を渡り、とりあえずミヨちゃんの家へと戻っていった。


改めてみんなの様子を見てみると、鯖になったミヨちゃんや、スッポンになったミヨちゃんのお父さん、お母さんは無事のようだ。


僕は、とりあえず玄関の前でとぐろを巻いて、襲撃者たちが来ないが見張ることにした。


そして、日が暮れて空がオレンジ色に染まる頃、空から黒い影が落ちて来るのが見えた。そして、それが僕の目の前にやってきたのだ。


……僕はそれを見た事はないが、それを図鑑では見たことがあった。


「ド、ドラゴンだ!」


ドラゴンは赤い目を光らせて言った。


「お前は誰だ?」


僕は動揺しながら聞いた。


「……僕を食べない?」


「食べないから答えよ!お前はこの家のものなのか?それともこの家の者へ害なすものなのか!」


「ひええええ!ぼぼぼ僕は、ミヨちゃんの友達でケンと言いますっ!ミヨちゃんは鯖になって、お父さんたちは亀になってしまいました!」


僕がビビりながらそう言うと、ドラゴンは目を光らせて言った。


「では、お前がこの田中家を守っていてくれたと?」


「はい……そうですけど……田中家を知ってるんですか?」


僕がそういうと、ドラゴンはニヤリと笑った気がした。


「久しいな、ケンよ。……俺は和明だ!」


「ええええ~!カズ君??」


僕はびっくりして、そのままおもらしをしてしまった。





「ふぅ。やっと落ち着いたよ」


僕は、やってきたみんなの話を聞いて、本当に驚きすぎて心臓が止まるかと思った。


「まさか、カズ君が異世界へ転生して、勇者をやっていたなんてね」


「まあ、それに関しては俺も驚いたけどな」


そういうとドラゴンは笑った。


ドラゴンになったカズ君が笑うと、ちょっとブレスが漏れてくるので、爬虫類の体にはちょっと辛かった。


それから人間のままの姿でいる人が3人もいて、それもちょっと驚きだった。


「で、これからどうする?」


そう言ったのは、アントニオという人だ。ずっと寝ていて、日本についてから目を覚ましたらしい。その時は、ここはどこだ?ってパニックになっていて、少し面白かった。


「この騒動の原因は神様だから、神様へ困ったことが起こってると見せつけるのはどうかしら?」


そう言ったのはシルヴィアさんだ。


「例えばどんな風に?」


「そうね、例えば、ドラゴンのパワーで、東京スカイツリーを叩き折るとか」


「か、過激だね!」


「それとか、アイリスさんの魔法で月を破壊するとか」


するとアントニオは動揺しながらシルヴィアの発言を遮った。


「そんな無茶なこと、言っちゃだめだよ!」


だが、アイリスは涼しい顔をしている。


「あら? それくらいの衛星なら、私の魔法でぶっ潰せますわよ」


「えーっ!潰せるの??」


驚く2人を見たアイリスはニコリと微笑んだ。

 

「ええ、もちろん。ちょっとばかし魔力を消耗しますけどね。だって私は大賢者ですから。あのくらいの衛星のひとつやふたつ、ぶっ潰すのもぶった斬るのも余裕ですわ」


アイリスはそういって胸を張った。すると、おおきなオッパイはブルンと揺れる。


そこでレッドドラゴンが口を開いた。


「俺やアイリスが暴れるのはかまわない。だが、神ほどの力を持つものなら、俺たちに個別攻撃をしかけて、終わりではないだろうか」


「確かにな。ドラゴンといえども、天災級の単体攻撃を加えられたらひとたまりもないからな」


ケンはそんな話を聞いて、ため息が出てしまった。


「あーあ。直接神様と話でもしなければ、はじまらないよね。でも、神様なんかどこにいるのかさっぱりわからないし、会って話せたらいいんだけど」


するとレッドドラゴンがこんなことを言い出した。


「俺は神に会ったことがあるぞ」


「ええーっ?それは本当なの?」


僕は驚いて聞いた。


「ああ。俺は異世界に行ってるからな。転移で世界をまたぐ時、転移の間と呼ばれる白い空間で異世界の女神と会ったんだ」


「じゃあ、アイリスさんって、転移魔法とか使えたりします?」


「そうねぇ。使えることは使えるんだけど、これはこの世界とあちらの世界との境界越える、神の領域へ干渉する魔法だから、いろいろと制限があるのよ」


それを聞いてレッドドラゴンは言った。


「そういえば、むこうからこちらへ、俺を転移させる時には、5人くらいの魔法使いが全力で転移魔法を発動させていたよね」


「でしょ? 注げる力に上限があるので、力があっても一人では発動できなくなっているの」


「そうか、それじゃちょっと難しいな」


「でも、蛇のケンちゃん程度の大きななら、私でも白の間へ送るくらいのことは出来ると思うわ」


「えっ!出来るの?」


みんなが一斉にケンの方を見た。


「ケンちゃん。ちょっと、神様に会いに行ってみようか」


「ええっ……僕は子供なんだけど大丈夫なのかな?」


すると、レッドドラゴン(田中和明)は、僕の目をじっと見て言った。


「ケンよ。もう頼れるのはお前しかいない。この際、子供だからとか、そういうことは言ってられないんだ。もし、お前が神様を説得してこの世界を救うことが出来たら、ミヨはおまえにやろう!」


僕は驚いてレッドドラゴンをジッとみつめた。


「ミヨちゃんを?」


レッドドラゴンは長い首を曲げて頷く。


「ああ、ミヨをお前の恋人にするといい。ミヨだって、世界を救った勇者の恋人になることは喜ぶはずだ。お前は知らないかもしれないが、ミヨはお前に恋心を抱いている……幼い恋だがな。だが、お前が失敗すれば、ミヨはただの鯖のままだ。このままバスタブで朽ち果てるか、焼き鯖寿司として食べられてしまうか、そんな未来しかないんだ」


するとレッドドラゴンは大きな羽根を広げて、口を大きく開けた。


「ケン。君ならきっと出来る。世界を救ってくれ!」


レッドドラゴンの口からこぼれるブレスがやけに熱かった。


ケンはコクリと頷いて立ち上がった……つもりだったが、ただカマ首を持ち上げただけだった。アイリスはその蛇の姿を見て背筋をゾッとさせた。


「じゃあ、行くわよ。無属性魔法:第十五階梯 テレポート・アナザーワールド!」


アイリスがそう叫ぶと、なにも無い空間から裂け目が現れ、白い光が眩くあふれ出した。


そして、アイリスは僕の体を鷲掴みにすると、ヒイイ! と小さな悲鳴を上げながら、ケンの体を裂け目めがけて雑に放り投げたのだった。




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