第5話 ケンちゃんへの頼み事
カラスと共に落下したマムシのケンは、奇跡的に生還を果たしていた。
たまたま落ちた先が池だったのである。
カラスはそのまま毒にやられてしまったけど、僕は蛇だから水の中は苦手ではない。ケンは泳いで池を渡り、とりあえずミヨちゃんの家へと戻っていった。
改めてみんなの様子を見てみると、鯖になったミヨちゃんや、スッポンになったミヨちゃんのお父さん、お母さんは無事のようだ。
僕は、とりあえず玄関の前でとぐろを巻いて、襲撃者たちが来ないが見張ることにした。
そして、日が暮れて空がオレンジ色に染まる頃、空から黒い影が落ちて来るのが見えた。そして、それが僕の目の前にやってきたのだ。
……僕はそれを見た事はないが、それを図鑑では見たことがあった。
「ド、ドラゴンだ!」
ドラゴンは赤い目を光らせて言った。
「お前は誰だ?」
僕は動揺しながら聞いた。
「……僕を食べない?」
「食べないから答えよ!お前はこの家のものなのか?それともこの家の者へ害なすものなのか!」
「ひええええ!ぼぼぼ僕は、ミヨちゃんの友達でケンと言いますっ!ミヨちゃんは鯖になって、お父さんたちは亀になってしまいました!」
僕がビビりながらそう言うと、ドラゴンは目を光らせて言った。
「では、お前がこの田中家を守っていてくれたと?」
「はい……そうですけど……田中家を知ってるんですか?」
僕がそういうと、ドラゴンはニヤリと笑った気がした。
「久しいな、ケンよ。……俺は和明だ!」
「ええええ~!カズ君??」
僕はびっくりして、そのままおもらしをしてしまった。
◆
「ふぅ。やっと落ち着いたよ」
僕は、やってきたみんなの話を聞いて、本当に驚きすぎて心臓が止まるかと思った。
「まさか、カズ君が異世界へ転生して、勇者をやっていたなんてね」
「まあ、それに関しては俺も驚いたけどな」
そういうとドラゴンは笑った。
ドラゴンになったカズ君が笑うと、ちょっとブレスが漏れてくるので、爬虫類の体にはちょっと辛かった。
それから人間のままの姿でいる人が3人もいて、それもちょっと驚きだった。
「で、これからどうする?」
そう言ったのは、アントニオという人だ。ずっと寝ていて、日本についてから目を覚ましたらしい。その時は、ここはどこだ?ってパニックになっていて、少し面白かった。
「この騒動の原因は神様だから、神様へ困ったことが起こってると見せつけるのはどうかしら?」
そう言ったのはシルヴィアさんだ。
「例えばどんな風に?」
「そうね、例えば、ドラゴンのパワーで、東京スカイツリーを叩き折るとか」
「か、過激だね!」
「それとか、アイリスさんの魔法で月を破壊するとか」
するとアントニオは動揺しながらシルヴィアの発言を遮った。
「そんな無茶なこと、言っちゃだめだよ!」
だが、アイリスは涼しい顔をしている。
「あら? それくらいの衛星なら、私の魔法でぶっ潰せますわよ」
「えーっ!潰せるの??」
驚く2人を見たアイリスはニコリと微笑んだ。
「ええ、もちろん。ちょっとばかし魔力を消耗しますけどね。だって私は大賢者ですから。あのくらいの衛星のひとつやふたつ、ぶっ潰すのもぶった斬るのも余裕ですわ」
アイリスはそういって胸を張った。すると、おおきなオッパイはブルンと揺れる。
そこでレッドドラゴンが口を開いた。
「俺やアイリスが暴れるのはかまわない。だが、神ほどの力を持つものなら、俺たちに個別攻撃をしかけて、終わりではないだろうか」
「確かにな。ドラゴンといえども、天災級の単体攻撃を加えられたらひとたまりもないからな」
ケンはそんな話を聞いて、ため息が出てしまった。
「あーあ。直接神様と話でもしなければ、はじまらないよね。でも、神様なんかどこにいるのかさっぱりわからないし、会って話せたらいいんだけど」
するとレッドドラゴンがこんなことを言い出した。
「俺は神に会ったことがあるぞ」
「ええーっ?それは本当なの?」
僕は驚いて聞いた。
「ああ。俺は異世界に行ってるからな。転移で世界をまたぐ時、転移の間と呼ばれる白い空間で異世界の女神と会ったんだ」
「じゃあ、アイリスさんって、転移魔法とか使えたりします?」
「そうねぇ。使えることは使えるんだけど、これはこの世界とあちらの世界との境界越える、神の領域へ干渉する魔法だから、いろいろと制限があるのよ」
それを聞いてレッドドラゴンは言った。
「そういえば、むこうからこちらへ、俺を転移させる時には、5人くらいの魔法使いが全力で転移魔法を発動させていたよね」
「でしょ? 注げる力に上限があるので、力があっても一人では発動できなくなっているの」
「そうか、それじゃちょっと難しいな」
「でも、蛇のケンちゃん程度の大きななら、私でも白の間へ送るくらいのことは出来ると思うわ」
「えっ!出来るの?」
みんなが一斉にケンの方を見た。
「ケンちゃん。ちょっと、神様に会いに行ってみようか」
「ええっ……僕は子供なんだけど大丈夫なのかな?」
すると、レッドドラゴン(田中和明)は、僕の目をじっと見て言った。
「ケンよ。もう頼れるのはお前しかいない。この際、子供だからとか、そういうことは言ってられないんだ。もし、お前が神様を説得してこの世界を救うことが出来たら、ミヨはおまえにやろう!」
僕は驚いてレッドドラゴンをジッとみつめた。
「ミヨちゃんを?」
レッドドラゴンは長い首を曲げて頷く。
「ああ、ミヨをお前の恋人にするといい。ミヨだって、世界を救った勇者の恋人になることは喜ぶはずだ。お前は知らないかもしれないが、ミヨはお前に恋心を抱いている……幼い恋だがな。だが、お前が失敗すれば、ミヨはただの鯖のままだ。このままバスタブで朽ち果てるか、焼き鯖寿司として食べられてしまうか、そんな未来しかないんだ」
するとレッドドラゴンは大きな羽根を広げて、口を大きく開けた。
「ケン。君ならきっと出来る。世界を救ってくれ!」
レッドドラゴンの口からこぼれるブレスがやけに熱かった。
ケンはコクリと頷いて立ち上がった……つもりだったが、ただカマ首を持ち上げただけだった。アイリスはその蛇の姿を見て背筋をゾッとさせた。
「じゃあ、行くわよ。無属性魔法:第十五階梯 テレポート・アナザーワールド!」
アイリスがそう叫ぶと、なにも無い空間から裂け目が現れ、白い光が眩くあふれ出した。
そして、アイリスは僕の体を鷲掴みにすると、ヒイイ! と小さな悲鳴を上げながら、ケンの体を裂け目めがけて雑に放り投げたのだった。
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