出勤

あたしが階段から落ちそうになったのを見て、ほっほっほっなんて笑いながらこっちを見ている老いた男と、心配そうな顔でこちらを見ている女。

この2人もあたしの部下。


男の方が「五条清」、女が「中尾和美」。


五条さんはあたしの部下の中で1番経験豊富で仕事は完璧、中尾さんはあたしが小さい頃からお世話をしてくれたお母さんみたいな人だ。


「気いつけたってくださいよ」


「本当ですわ。怪我をしてからでは遅いんですのよ」


とあたしの醜態を見ていた人達から猛烈なツッコミが入る。


「お嬢様、お仕事の道具はこちらにご用意してございます」


「ありがとう、五条さん」


2人の口撃から守るように、五条さんは慇懃にあたしに革のアタッシュケースを渡してくれる。


「いとちゃん、ほんとに気を付けてね。さっきみたいに階段を踏み外したり、どこかで転んだりしないように……」


「はーい!!分かりました!!!行ってきます!!!!」


中尾さんのお叱りもそこそこにあたしは家を飛び出す。


みんなのいってらっしゃいの声を背中に受けながら、門を出る。


あたしがみんなと話をしている間にシゲちゃんが正面に回してくれていた車に乗り込んで、今日の仕事へと赴く。

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