霊災事例⑤ 中央広場「魔道具市」の護符

◼️ 死霊系モンスター報告書(概要記録)

報告者 : B級冒険者(ジョブ:魔法使い。属性:土)

遭遇日時: 第七月・八日 午前十二時頃

発見場所: 中央広場「魔道具市」東端付近、橋の手前

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◼️ 報告内容(抜粋)

・報告者が魔道具市で購入した霊的守護アイテムを身につけた直後から、霊的存在の接近・目撃が始まった。

・窓の外に人影が現れる、室内の異常低温、霊系モンスターとの不自然な接触頻度の増加など。

・三日目には人影が窓に張りつくほど濃くなったとの証言あり。

・再訪時、店は跡形もなく消失。周囲の店舗も「最初から存在しなかった」と証言。

・店内には女性向け魔道具が多く並べられていたが、照明は薄暗く、奥には目玉のようなものを瓶詰めにした陳列も確認されていた(本人は特に違和感を覚えていない様子)。

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◼️ ギルド窓口への報告内容 詳細

 先週の話になります。

 中央広場で行われている定例の「魔道具市」に行ったんですよね。私、魔道具をよく使うタイプなんで。何か良い掘り出し物が無いかなーって思って。


 で、市の東の端っこ、橋がある手前くらいのところでいいお店を見つけたんですよ。でも、そこで手に入れたアイテムがなんかおかしかったんですよ。


 そこでは、小型の様々な魔道具が売られていて、デザインが凝っていて、女性向けっぽいデザインで、どれも魅力的でした。


 その一つに、霊系モンスターから自動的に守護してくれるアイテムが売られてたんです。そういえば、そろそろ向かうダンジョンには、そういったモンスターが出てくるところがあって。守護してくれるアイテムがあれば便利だと思って買おうとしたんですよ。


 店主らしき人物は優しそうな女性で、声も穏やかで、丁寧に商品を説明してくれました。

 「これは霊的存在から自動的に守ってくれる護符。身につけていれば、近寄ることすらできない」

――と。


 説明は筋が通っていたし、品物も傷や汚れはなく、魔力の気配も確かに感じました。値段も相場より少し安いくらいで、特別怪しいところは見受けられませんでした。


 ですが、問題はその日の夜です。


 帰宅して護符を身につけたまま休んだところ、明け方に目が覚めました。

 部屋が妙に寒く、何より、窓の外に「人影のようなもの」が立っているのが見えたのです。

 確認しようと近づいたときには既に姿はなく、その後も何度か似た現象が続きました。段々その人影は濃くなっていったような気がします。最初は影があるかな?気のせいかな?ってくらい薄かったんですけど、護符を買ってから三日目には、もう窓に張り付いているんじゃないかってくらい濃くなっていました。


 更に、三日ほど護符を携帯していた間に、任務等もこなしていたんですが、霊モンスターとの偶然の遭遇が不自然な頻度で発生しました。

 

 護符の本来の効能とは真逆――呼び寄せているとすら思えるほどです。


 最初は護符の設定を、自分が誤っていじってしまったのかとも考えましたが、特に調整機能があるわけでもなく、構造上そうこともできそうにありませんでした。


 一週間くらい市はやってたじゃないですか。


 だから、護符を買ってから三日目の夕方に行って聞いてみようとしたんです。何かの不具合なのかって。

 悪意を持ってやってるのなら通報した方が良いけど、もしかしたら効果の表示をミスっているだけかもって思って。まあその場合、注意した方が良いですけど、そんなに大事にすることでもないかなって思ってました。霊系のモンスターはちょっとわからないですけど、ダンジョンで目的の魔物を討伐するために、その魔物を呼び寄せる効果があるアイテムもありますもんね。


 でも、次の日に行ってみたんですけど、前に店があった場所には何もなくて。橋の前でわかりやすい所だったから、場所を間違えてるわけではないと思うんですけど……。近くの店舗に聞いてもそこは最初から何もなかったって言われたんです。

 これってもしかして、そのお店自体がお化けってことですか?


 そういえば、入り口は女性向けの魔道具がおかれていたのですが、どことなく薄暗かったように思えます。後、奥には瓶に詰められた目玉のようなものが大量にあった気がします。今思い出すと少し不気味ですよね。


 え?その魔道具ですか? その日のうちに神官様に頼んで、浄化センターに持って行ってもらいましたよ!

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◼️ 現象の推定

・報告者の言動から、精神的な干渉が疑われる。異様な店舗に対しての正常性バイアスが強く働いていたと見られる。

・他の報告で、同様の店舗で商品を購入した者が「夢の中で女に目を抉られた」後、現実でも目が失われていたという報告あり(治癒魔法により回復)。

・現象は護符を取得してから四日目以降に顕在化する傾向がある。

・店舗の実態は不明だが、人間向けと怪異向け双方の商品を取り扱っていた可能性がある。

・霊的存在を呼び寄せる意図的な効果を備えた護符を、人間側に誤認させて流通させていた可能性。

・店の目的は明確でないが、「商売」として成り立っている様子があり、被害そのものは選別されている可能性もある。

・その店の店主が人間か、霊モンスターが化けているものかは不明。

・魔力が高い者を中心に狙っている可能性あり。

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◼️ 霊災等級(暫定)

五等

・死亡例はなく、被害範囲も限定的であるためこの評価となった。

・ただし、精神干渉・霊的干渉の複合型であるため、被害が拡大するようであれば要検討。特にB級冒険者にこのような精神干渉をすることが出来るという点は脅威である。

・だが、この店で商品を買わなければ被害には合わないため、現状ではそこまでの脅威は無いと考えられる。

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◼️ 対応

・中央広場東側に結界型探査儀を三日間設置 → 店舗の痕跡確認されず。

・護符と類似品の調査を継続中。魔道具市出店履歴に該当なし。

・今後、魔道具市開催時の監視強化を予定。幻影系魔術の干渉の可能性も視野に調査継続。

・購入者への事後聞き取り強化。被影響者の精神鑑定も合わせて実施中。

・商品を購入した者に対して専門の部署へ届け出るように通達。

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