霊災事例② 「目」

◼️ 死霊系モンスター報告書(概要記録)

報告者 :A級冒険者(ジョブ:司祭)

遭遇日時:第七月 午後十時

発見場所:中央地方管理下ダンジョン「影の迷宮」中層部

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◼️ 目撃内容(抜粋)

・既知の死霊系モンスター(通称:影の迷宮の徘徊者)の急増傾向を受け、ギルド本部より派遣され単独でダンジョンに入る。

・捜索中、突如として視界が暗転し、空間転移が発生。直後、視界一面に大小無数の「目」が浮かぶ異空間に転送される。

・精神への直接干渉・幻覚等の兆候は無く、意識は明瞭。

・使用された魔法の性質および転移の系統については、報告者が聖職系であり、魔法職ではなかったため特定できず。

・ただちに高位聖魔法を展開。発動直後、空間が裂けるように揺らぎ、視界の「目」が崩れるように消滅。同時に、自動的に元いた地点へ帰還。

なお、報告者によれば、当該空間には「敵意」や「悪意」は感じられなかったとのこと。

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◼️ ギルド窓口への報告内容 詳細

 そうですわ。死霊系モンスター、『影の迷宮の徘徊者』の急増の状況を鑑みまして、ギルド本部より正式に私への派遣依頼が参りましたの。それで、このダンジョンへ赴く運びとなりました。


 A級冒険者たる私にかかれば、このような任務など、さほどの労も要しませんのよ。案の定、依頼内容は速やかに完了いたしました。ただ、確かにモンスターの増加は目に見えておりました。通常の約1.5倍、特に増えている場所に至っては3~4倍もの数に膨れ上がっていたように感じます。あの量では、低級の冒険者には相当な苦難となるでしょうね。


 任務終了後、念のため中層部を慎重に捜索しておりました折、突如として視界が一瞬で暗転しまして、まるで異次元に引きずり込まれるかのように転移いたしました。


 その瞬間、私の視界の前には大小無数の「目」が浮遊する異様な異空間が広がっていたのです。心底、気味が悪くて不快でしたわ。とはいえ、精神に対する直接の干渉や幻覚の兆候は一切見られず、私の意識はまったくもって鮮明でございました。


 転移の魔法の詳細ですって?申し上げました通り、私は聖職者であり魔法職ではありませんから、そうしたことを特定できる立場ではございませんのよ。


 不快極まりないその異空間に対し、私はすぐに高位聖魔法を展開いたしました。すると、その空間は裂けるように揺らぎ始め、無数の「目」が崩れるように消え去りました。同時に、私の身体は自動的に元の位置へと戻されましたの。


 興味深いことは、私が感じた限りでは、あの異空間には悪意というものは一切存在していなかったことですわ。何がしたいのかわからない空間でしたわね。魔法は命中していましたが、手応えがなかったので、本体は別にいるのかもしれませんわ。


 以上が今回、私が遭遇した現象の詳細でございます。何かご質問がございましたら、どうぞお聞きくださいませ。


 再度派遣を?今度はこの「目」の調査の依頼ですって? 絶対に嫌ですわ。あの不愉快な空間にもう一度閉じ込められるなんてごめんですもの。別の調査隊の報告を待ちますわ。

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◼️ 現象の推定

・攻撃は命中していたが手応えがなかったことから、目に見えた現象は投影か残留幻影であり、本体は他に存在する可能性が高い。

・高位の死霊、またはそれに準じる存在による「観察」目的の干渉の可能性あり。

・当該現象と、近隣層における死霊モンスターの異常出現数増加との関連が疑われている。

・精神干渉や呪詛による後遺症などは確認されておらず、実害はないと見られるが、詳細は調査中。

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◼️ 霊災等級(暫定)

未確定(分類保留)

・現段階では実害が確認されておらず、霊的圧による影響も低いため現状では分類無し(無害)。

・なお、死霊系モンスターの出現増加への関与が認められた場合や、高ランクの聖職系ジョブの者以外へは実害がある場合には、等級が引き上げられる可能性がある。

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◼️ 対応

・対策本部より、魔術師・司祭混成の調査隊を現地へ派遣予定。

・目撃された空間および転移現象が再発した場合には、即時帰還と記録提出を推奨。

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