ゼラニウム

おや、お客人かな。いらっしゃい。

そこにお座りになって。ゆっくりしていって。

この屋敷に客人来るのは珍しい。


少し埃っぽい部屋だね、あとで掃除させよう。

本当によく出来た、役に立たないメイドたちだ。

お仕置きしないとね。


さて、お客人。どこから来られたのかな?

屋敷には簡単には入ってこられないはずなんだが

どうして入って来られたのかね?

だんまりかい?まあいい、どうぞ、ゆっくりしていって。


うん?私の話を聞きたいというのかい?

勿論、なんでも話そう。私でよければ。


この屋敷について、ああ、屋敷に興味があるのかい?

この屋敷はもううんと古いんだよ。そうだね、君が産まれるずっと前

そんな古い古い建物だよ。ハハ、子供に話すようにするって?

すまないね。私は子供が多いからね。大好きなんだよ、子供がね。


昔話だよ。屋敷が生まれて、その周りに人が集ったのさ。

崇めるようにやってきてね、なんだか屋敷も得意になってしまって

そうしたら皆が縋るようになった。

何か大きなものが現れると、人は頭を垂れたり平伏したりする。

不思議なものだね。

そんなこと、一つも望んでいないのに、するものだからね。


おや、目の色が変わったね。どうしたんだい?

話をの続きをしようか、せっつくね。


屋敷には多くの働く者がいた。皆、屋敷の中では幸せだったんだ。

それぞれが役割を果たし、それぞれが美しく生きる。

まるでそれが絵画のようにでも見えたのか、集まった人たちは

屋敷に火をつけようとしたのさ。


火は良く燃えてね。周りの家々も巻き込んで良く燃えたのさ。

そして天に黒い煙が帰る頃、また屋敷は美しい屋敷に元通りさ。


うん?おかしいって?おかしくはないさ。

君は君のものさしで私の話を聞き、判断している。

見たことのないものを、ないものとして判断している。

けれど屋敷は今こうしてあるだろう?

それとも私の話が嘘だったのか、そんな風に考えているのかな?


ああ、ほら。ごらん?

あのメイドの腹は膨れているだろう。もうじき産まれるんだよ。

なかなか良い声で鳴くものだからね、ついそうしてしまったんだ。

けれど大切なものだからね。


先日もメイドが一人ガリガリに痩せてね。

あれは滑稽だった。人を一人取り除くのだから、そうなるのも仕方がない。

どうかしたかい?顔が真っ青だ。

何か暖かいお茶でも用意しよう。

そうすれば気分もよくなるだろう。


大丈夫かい?お客人。

そこのメイド。こちらへ来なさい。

さあ、お前は準備して。客人をもてなして。

そっちのメイド。お前はここで、私をもてなして。



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