第7話 本文を書いてみた話その2

 KADOKAWAファンタジア文庫より絶賛発売中のライトノベル「魔王は扇子で蕎麦を食う〜落語魔王与太噺〜」制作備忘録の続きです。



 全体的なストーリラインと書き方は定まった。あとは本書にとって欠かせない落語の場面の表現だ。

 落語の速記本などでは落語のセリフがそのまま全部書き起こされているがこれは小説である。登場人物の掛け合いと成長がメインなのでそのままセリフを全編載せても仕方ないしスペースもない。かと言ってあらすじだけ載せても味気ない。


 そこで出てくる落語のセリフの中で印象的なもの、幹となるものを抽出しその合間を主人公の心情で埋める事にした。

 特に落語の最中に落語家が何を考えているかを文章に落とし込むことは他の作家にはできない事なのではと考えた。


 実際の文章は本書を読んで確かめてもらいたいが例えば


「えー、今日はいっぱいのお運びで……」

 んー、落語初めての人が多そうだな。ならわかりやすい『子ほめ』をやるか。

「どうも隠居さーん、こんちはー」

 この『子ほめ』は前座噺の中でも特にスタンダードな噺だ。隠居さんに教わった事を後半でそのまま間違えるオウム返しのパターンが面白い。

「タダの酒飲ませろ」

「うちにあるのはナダの酒だ」

 お、このジャブ的なくすぐりで笑いが来てる。今日はいいお客さんだ。

「赤ん坊どこにいるの?」

「そこにいるだろ」

「あ、これかい。禿げ上がって入れ歯ガタガタしてる」

「それうちの爺さんだ!」

 お、ここで大きな笑いが来たぞ。サゲまであと一息だ。



 ↑このような感じである。本文中にはもう少しストーリー上の心の動きも入れているわけだが。

 ただこのように淡々とした高座を繰り返すのは読者に飽きが来てしまう。何かライトノベル的な、スキルというか能力表現はできないものか。ただし魔法は使わずに。

 そこで参考にしたのがジャンプのバトル漫画……ではなくスポーツ漫画だ。

某バスケ漫画での能力、両の目の他にコート上を上空から俯瞰した目で見る能力。

 これは落語家が高座中に落語だけに熱中せずに俯瞰した目で客席や自分を見ている事に通じる。これを誇張しライトノベルっぽい表現にすれば必殺技っぽくなるかもしれないと思い至った。

 これを後半の見せ場に効果的に使う。実際どのような表現になったか……それは本書を読んで確かめてもらいたい。


 ここから担当さんからの指摘で細かい表現の修正、文字数超過により場面のカット、などを繰り返し約一年かかって本文が完成した。

 ただライトノベルは本文だけでは完成しない。表紙や挿絵を飾るイラストとキャッチーな作品タイトルが欠かせない。


続く

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