第8話 イラストレーターさんの話

その8 イラストの話


 KADOKAWAファンタジア文庫より絶賛発売中のライトノベル「魔王は扇子で蕎麦を食う〜落語魔王与太噺〜」制作備忘録の続きです。


 本文を書き上がってもまだライトノベルは出ない。ライトノベルにとって本文と同等、いや、本をまず手に取ってもらうために本文以上に大切なものが表紙や挿絵のイラスト、キャラクターデザインだ。

 特にデビュー作であり本文が未知数な吉好の本をまず手に取ってもらうには圧倒的に目を惹く表紙イラストが大事だった。

 ライトノベルと一般小説の違いは文章にもあるけれども、やはり大きな違いといえばキャラクターデザインやイラストがあることだ。筆者としても文章と読者の間にイラストというワンクッションが存在する事により想像力への刺激に大いに助けとなる。

 吉好も魅力的な表紙に惹かれてライトノベルをジャケ買いしたこともある。

自分の書いた文章にイラストが付く。これは本当にありがたくもあり、楽しみであった。


 これは本文の執筆が佳境に迫った頃に並行して「そろそろキャラクターデザインを決めましょうか」という事になった。執筆から10ヶ月ほど経った頃だ。

 本文書き始めの頃からデザインが決まってるわけではない。そりゃそうだ、どんな文章になるかわからないのにデザインのしようがない。


 編集さんがおすすめしてくださったイラストレーターさんが絵葉ましろさんだった。

 絵葉ましろさんが手がけられた過去のライトノベルを拝見したがまず女の子が抜群に可愛い。それでいてイヤラしすぎない健康的な色気。

 女の子のデザインだけでなく男性キャラも若いイケメンからおじさんまでの描き分けがお見事だった。

 作品として若い男女だけでなく中年や老齢の師匠も出てくる。女の子のデザインと共にそういった師匠のデザインが欠かせなかった。

 スケジュールを確認していただくとなんとか都合がついてイラストをご担当いただく事が決まった。


 キャラクターデザインしていただくにあたってキャラクター設定を改めて作ってみた。本文とは別に作者のイメージを汲んでもらい、キャラクターデザインのイメージしてもらうためだ。

 例えばヒロインであるハチは以下のように設定した。


○浮乃家八子(うきのやはちこ)


 メインヒロイン。通称ハチ。魔界からやってきた八代目魔王カオスムーン。

 力は強いが魔法を上手く使えず修行もちゃんとしていなかったので先代魔王であり母親のマ魔王から魔法の修行に繋がると現実世界で落語家の前座修行をするように言われる。

 元は背中に羽、頭にツノ、口にはキバが生えていたがマ魔王に封印されて八重歯で面影が残る位。強かった力も封印されて人並みに。

 最初は興味なかった落語も光月の『死神』に魅了され魔力が身につくのではと弟子入り。

 弟子入り当初はワガママで傍若無人だったがヨタの指導や楽屋での修行の成果で徐々に落語や修行の本質に気付いていく。

 奔放な性格だが裏表がなく師匠方から可愛がられる事も多い。

 異世界にいた頃から語り聞かせが好きで物語を自分なりにアレンジをしていた。

 それが活きたのか落語でも古典の改作、そして新作落語の才能に目覚めていく。

 ヨタとは悪友のような、兄妹のような色気のなさそうな関係だが……

 語尾は「じゃ」

 甘いものに目がない。

 性格も含めてボーイッシュだけどちゃんと女の子とわかる可愛い容姿。チンチクリンで背は小さい。150センチ以下か。


 他にこんな声優さんをイメージしてますなど聞かれてもいない事を書いていた(笑)

 このような設定をメインからサブまで一通りお送りしてデザインが出来上がるのを心待ちにした。


 それから1ヶ月ほど経った頃だろうか。メインキャラクターのデザインラフが届いた。

 それを見て驚いた。

 もう理想的!クオリティが高すぎる!

 脳内でイメージしていた一万倍以上のデザインをお返しいただけたのである。


 まずはこの作品の根幹となる魔王=ハチのデザイン。ハチをいかに可愛く描くかで全てが決まると言っても過言ではない。

 出来上がったデザインを見ると可愛いらしさと生意気さ、ちんちくりんなんだけどほんのり色気のある、最高のバランスのキャラクターに仕上がっていた。

 特に秀逸だと思ったのは魔王から人間態になりツノが無くなるのだが、人間態でもツノっぽく見えるような髪型の纏め方をしているところ。不自然ではなく可愛らしい髪型のデザインに舌を巻いた。

 個人的に黒髪パッツンキャラが大好きなのだけれどハチもそうしてくれたのが嬉しかった。文中にそんな表記はないのに。脳内で通じ合ったのだろうか。


 ハチの他にも主人公のヨタは嫌味のなく爽やかで、でもどこか翳りも感じさせるイケメンに。

 師匠である光月は優しさと、その奥に感じさせる芸の深さを感じさせる達人のように。

 強面の楽三師匠はただ怖いだけでなく懐の広さを感じさせる親分のように。

きら星はいかにもな正統派美少女に。幼馴染のみつきはハチともきら星とも違った方向の可愛らしいJ Kに。

 各キャラクターをあまりにも見事にデザインしていただいた。絵葉ましろさんは作品をきちんと読み込んだ上でデザインしてくださったということでありがたい限り。


 こちらから言えることはなかったのだけれど「前座で羽織は着ない」「女性でも前座のうちは男帯を巻く」など落語の世界のルールについては、適宜話し合いながらキャラクターデザインを固めていった。


 さぁ最高のキャタクターデザインをしていただいた。あと肝心なのは作品タイトルである。

 そう、本文が出来上がるギリギリまでタイトルは決まってなかったのである。


続く

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