第6話 本文を書いてみた話
KADOKAWAファンタジア文庫より絶賛発売中のライトノベル「魔王は扇子で蕎麦を食う〜落語魔王与太噺〜」制作備忘録の続きです。
さてプロットが通ったところで本文に取り掛かる。
プロットに関しては落語も小説もそう変わらない。何がどうなってこうなったという話の流れを箇条書きしていく。
これが本文となるとガラリと変わってくる。そもそも落語と小説の書き方の違いとはなんだろうか。
落語の一場面を抜きだしてみる。
「じゃあ、八っつぁん、またな」
「はい、隠居さん、ありがとうございました〜。お、なんだい(空を見上げる仕草)雨が降ってきやがった。こりゃ急いで帰らねぇと(移動する仕草)おっかぁ、今けぇってきた」
「お前さん随分遅かったじゃないかさ」
という風にほとんどがセリフで構成され天候の変化や移動も目線や仕草を補助して表現される。
これを小説風に書いてみると。
「じゃあ、八っつぁん、またな」
隠居と一通りの話を終えると八五郎は挨拶だけ帰宅する事にした。
「はい、隠居さん、ありがとうございました〜」
八五郎が外に出ると来た時とは変わって雲が黒い。ポツリという感触に空を見上げると雨が降ってきた。
「お、なんだい、雨が降ってきやがった。こりゃ急いで帰らねぇと」
そう言いながら傘を持っていなかった八五郎は家路を急いだ。
「おっかぁ、今けぇってきた」
「お前さん随分遅かったじゃないかさ」
八五郎が家に帰ると妻のおみつが迎えてくれた。すぐ帰ると言ったのに隠居宅に長居したせいで少し呆れているようだ。
ざっくりですがこんな感じでしょうか。
落語なら仕草や目線、間で表現するところを全て文章で書かなければいけません。
まずは上記の例の様にプロットから本文を三人称で書いていきます。
セリフ以外の部分を地の文で埋めていくんですが三人称だとどうも説明的で固くなってしまう。
これは僕が慣れてないからで三人称でも文章が柔らかい書き方はいくらもあるでしょう。ただ僕にはまだそれができない。
落語は基本的にセリフメインですが一部で地の文が入ることもあります。
「ようし、俺も明日の晩にやってやろ」
(以下地の文)なんてこのボーッとした男が帰りましてね、翌日袂に小銭をジャラジャラ詰め込んで、昨夜よりも早い時間に出かけてしまいまして
のようにシチュエーションの説明や場面簡略化のために地の文が入ることがあります。
文字だけで見ると三人称ですがそこに落語家本人の語り、キャラが乗る事によって一人称のようにもなります。
もしかしたら一人称の方が自分には合っていると思い途中まで書いていた三人称の地の文を全て主人公ヨタの一人称に直しました。
そうする事によってヨタの心情はわかりやすくなり、主人公としての重みができました。
三人称視点だと読者がヨタに感情移入できなかったかもしれません。
セリフ以外に地の文でヨタの心情を掘り下げる事によってキャラが生きてきたんです。逆に三人称の書き方でそれができる作家さんって凄いなと思います。
一人称視点で書き進めるとどうしても主人公視点しか書けずその裏で書けません。
そこは視点の変更という技術を学びました。
例えば
「そ、そんな……」
僕は彼女のその表情を見て驚愕した。
○○○
私の表情の変化に彼は驚いているようだ。
「気にする事ないよ」
↑というように間に○○○など挟む事によって視点が変わったよと示す事ができる。あまり頻発すると誰が誰だか混乱しがちだが使いようによっては効果的だ。
本編前半では一章に一回あるかないかの視点移動を、最終章で主人公→他キャラ→主人公を連続させた事によりクライマックス感も出せた。
さて、なんとなく全体の流れができてきた本文で一番の見せ場であり難産だったのが落語の場面の書き方だった。
続く
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