第6話 女子高生Aの自撮り

あれから数ヶ月が経った。


私は山奥の実家で静かに暮らしている。


電波も届かないし、SNSもしていない。


完全に世捨て人の様な生活をしている。


「@n0_follower_girl」


今思い出しても身震いがする・・・すべて忘れたかった。


しかし、それは許されなかった。


ある日、都内の元同僚・C先生から、郵便で一通の手紙が届いた。


封筒の中には、手紙とプリントアウトされた紙が一枚だけ入っていた。


「警察が捜査の為に保管していたAのスマホが、今月に入って一時的に勝手にオンライ状態になり


 Wi-Fi経由で、Twitterアカウントに自動ログインし、ある動画がアップロードされたそうです。」


「アップされたのは、Aの自撮り動画らしいのですが、しかし、映っていたのは・・・彼女一人ではなかったそうです。」


添えられていたのは、そのツイートのスクリーンショットだった。


ユーザー名は「@n0_follower_girl」


撮影時間は、Aが失踪した日の午前2時13分。


ツイート内容はたったひとこと。


「さいごの じかん」


動画の内容が気になり、私は久しぶりに街へ降りた。


人目を避けながらネットカフェへ入り、パソコンを起動した。


手紙に記載されていたアドレスを入力する。


動画はまだ削除されていないようだ。


そして、震える手で問題の動画を再生した。


その動画は、Aの自室と思しき場所から始まった。


画像は少し暗い、部屋のカーテンが締め切られているせいだろうか?。


最初、Aはスマホのインカメラに向かって話しかけていた。


「見つかるかもしれない。」


「でも、どうしても記録しなきゃって思って・・・」


Aの目の下にはクマがあり、ひどくやつれた様子だった。


彼女は怯えながらも、時折、カメラの背後・・・つまり部屋の隅を警戒するように見ていた。


「なんで、こんな事になったんだろう?」


「お母さん、ごめんなさい」


「お母さんは、大丈夫だろうか?」


「K先生は、大丈夫?」


「K先生、もし見てたら「ごめんなさい」先生を巻き込でしまったかも・・・」


そのとき、彼女がぴたりと口を止めた。


部屋の奥、彼女の背後にあるカーテンの向こうから、かすかな衣擦れの音が聞こえる。


Aが震える手でカメラを固定したまま、ゆっくりと後ろを向く。


画像が乱れ始めた。


ノイズ、黒い影のようなものが画面を横切る。


だが、その瞬間「それ」が見えた。


カーテンの隙間から、大きな黒い瞳が、じっとこちらを覗いていた。


「@n0_follower_girl」のアイコンの「目」だった。


顔は写っていなかった。


黒い、何も映さない虚ろな目玉だけが、カメラを通してこちらを覗き返していた。


Aは、悲鳴を上げようとした。


だが声が出ない。


突然、画面が真っ暗になって、スマホが床に落ちる音が響いた。


その直後、Aの顔がカメラに映り込んだ。


彼女は真っ白な顔で、口元だけがゆっくりと歪んでいた。


その目に、光はなかった。


そして、彼女の背後には、天井の隅に黒い影が張りついていた。


動画はそこまでだった。


私は、マウスを操作する手が震えているのを抑えられなかった。


ページのコメント欄には、誰も何も書き込んでいない。


いいねもリツイートもゼロのままだ。


まるで、誰にも見られないまま、誰かのためだけに投稿されたかのように。


その時、ネットカフェのパソコンに通知が表示された。


「@n0_follower_girlさんがあなたをメンションしました」


寒気が走った。


呆然としながら、震える手でアカウントを開いた。


そこには、新しい投稿がひとつだけ表示されていた。


「つぎは せんせいと いっしょに」


添付されていた画像を見て、私は、さらに凍りついた。


それは、今、私の背後に、Aの白い顔がぴたりと寄り添い、


その肩越しに「黒い目」だけが、こっちをじっと見ている画像だった。


私は、悲鳴を上げて、ネットカフェを飛び出した。


その後は、どの様にして実家に帰ったか覚えていない。


「@n0_follower_girl」


あれは夢ではなかった。


映像を見た後、今でも、私は、背後に「気配」があるような気がしてならない。


「つぎは せんせいと いっしょに」


私は、もう・・・

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