第3話 ドナルド

 富永のおっちゃんがハイボール片手に

「ドナルドぉ。見損なったぞぉ。」

と愚痴っていた。


ドナルド?


「トランプ。アライちゃん知らんのか?」

知ってる、アメリカ大統領でしょうよ。


ドナルドって聞いて、私が思い浮かべるのは、可愛らしいダックのほう。不機嫌そうな顔で四六時中ニュースに写ってるほうじゃない。友達でもないし。


おっちゃん、知り合いか?

「全然。」

そりゃ、そうやろうよ。


それで?

「軍事パレードなんて、北朝鮮のオッサンの真似して。」

富永のおっちゃん曰く【センスなし】との事。 



 アメリカ第47代大統領トランプさん、自分の79歳のバースデー(6月14日)に、軍事パレードを主催した。総額65億円ぐらいかかってるらしい。


おっちゃん、

「装甲車見せびらかして、いい気になっとるなんてな。」


 これは、私も同意。アメリカ合衆国独立記念日とか、国の行事に関わることならまだしも、自分の誕生日と、アメリカ軍創立記念の祝賀パレードかぶせる必要ある?


 アメリカ軍創立250周年と、トランプさんが大統領している時期とが重なっただけであって。


もしBBQソース生誕80年記念と重なってたら、大統領特別配合BBQソース入りホットドッグパレードなんてのも開催してくれるのかい。

 沿道の人にホットドッグ無料配布2万個なんて、そっちのほうが喜ばれるかもよ。


私が

「子供は喜んで見てた。」

「子供は動いてる乗り物が好き。ウチの孫もそう。」

「孫ちゃん、乗り物すきなの?」

「ユンボ動かしとるとこ見せたら、じいじ、すごいって。」

孫ちゃんからの賞賛、一番やな。


 独裁者、権力は振りかざせても人望はなさげ。自分のバースデーなんだから祝いなさい!とゴリ押しすんのも大人気ない。


 富永のおっちゃん、自分のイカ焼き少し分けてくれた。ありがとう、おっちゃん。こういうところが、トランプさんには欠けているんかもな。



 おっちゃん曰く

「そうやなくても、チンピラみたいな事ばっかししてんのに。」

とは、トランプさんがSNSで呟く話題が、あんまり品の良い内容ではないからだ。恫喝まがいだったり、これが大国の大統領とは。


 自分とは真逆の考え方したり、法案に意見してくる人の存在があるのは、人間の社会に生きている以上、ごくまともな事だと思う。


 ネズミの集団自殺っていうのがある。増え過ぎた個体数を調整する目的らしいけど、1匹が川に飛び込むと他も続けとなって、そこには反対派なんて存在しないのが恐ろしい。話し合いも何もなく、ただただ前に従うだけなんて。


 イエスマンの良し悪しって、そこだと思う。考えることの放棄。



私が

「トランンプさんが、反対意見の人の事、Xに投稿しとる間に、おっちゃんだったらユンボで追いかけ回してるやろな。」

「穴掘って埋める。」

と、おっちゃんもガハハと笑った後、おっちゃん真顔になって

「俺、自分のやり方に色々言われたら、もちろんカチンとくる。ただな、その場では黙ってて、俺のいない場所であれこれ言う奴よりも、よっぽど信頼おけるんや。」

とは富永のおっちゃん論。


 おタケさんが

「とみさん、若い子に何言われちゃったの?」と尋ねると、おっちゃん、うーんと唸り

「馬券。それやめとけってな。」

おっちゃん、競馬のレース外れたんかい。

「自信あったんやけどなぁー。若いもんの言う通りにしとけばよかったわ。」

ガハハと笑ってた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る