オートノベル

主道 学

第1話

 西暦2046年


 人々の唯一の楽しみがあった。

 それは小説である。だが、小説家はいない時代のこと。


「ねえ、考えたんだけどアンドロイドの書く小説って、面白いけど何だか虚しくないか? 何だか大量生産された本をぼくたちが毎日消費するんだよ」

「そうかしら。一億冊以上の本が頭脳に入ったアンドロイドの小説なのよ」

 ぼくと真由美は、お気に入りのカフェでお互い難しい顔をして、コーヒーミルで丁寧に豆を挽いているアンドロイドの方を見た。


 こちらに愛想よく笑顔を返したアンドロイドの名はリバティという。全てのアンドロイドの名をリバティと名付けたのは誰だったか?

 フリーダムを徹底して破壊しようとする魂胆が見え見えだと思うけど、実際そうであるはずだ。


 今の社会は徹頭徹尾といっていいほど社会的だった。

 そう、社会的だ。

 人間は機械に支配され。

 自由をリバティに支配され……。

「何考えてるか手に取るようにわかるわ。そんなに難しい顔するのは、雄二の悪い癖ね。とことんどん底まで考えてから、一筋の道を見出して決まって酷い鬱になる」

「おいおい、そりゃないだろ」

「アハハ、そうね。あんたって、どんな鬱になってもすぐに立ち直るし。ほんとタフよね」

 コーヒーがテーブルにアンドロイドによって正確に置かれた。

 味もしっかりいつもの味だ。

 違う味も何もない。

 この町では、コーヒーの味が独占されているんじゃないだろうか。


「うーん。やっぱり、虚しい……」

「また考えすぎている」

「だって、そうだろ。読んでいると、みんな同じような小説ばかりだとちょっと考えてしまうんだ。でも、当たっているんじゃないかな」

 コーヒーを口に運ぶ真由美は首を捻って、

「そうね。でも、こう考えたら。決して一生のうちには、同じ作品に出会わない。もし、出会ったらすごくラッキーだって」

「やめろよ。虚しくなってくるよ」

「それなら、自分で小説でも書いてみればいいんだわ」


 それから、十年の時が経ち。

 高校を卒業したぼくも真由美も同じ工場で働くようになったけど、ぼくはあの時のことをずっと覚えていた。

 毎日のワンパターンの機械のチェックや部品の発注などをしながら、一冊の本を書いた。

 勿論、誰も読まなかったけど。

 真由美だけは読んでくれた。

 

「面白かったわ。何だか凄く貴重よね」

 真由美は読了後に微笑んだ。

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