第13話「この世界のどこで、君を守るのか」

放課後、空き教室にて――


 


 私がそう言い出したのは、もう限界だったからだった。


 どちらも大切な人。

 でも、二人ともどこかおかしくて。

 ――私が知らない“何か”を知っている。


 


 だから私は伝えた。


 「今日、放課後。…話がしたいの。二人とも、一緒に」


 


 最初に来たのは奏。

 次に、神谷くんがドアを静かに開けた。


 


 私は、正直に言った。


 


 「私……最近、変な夢を見るの。病室のベッドとか、誰かが名前を呼んでる声とか。

  現実には起きてないはずのこと。でも、すごく――リアルで」


 


 ふたりとも、言葉を失ったように黙った。


 私は続けた。


 


 「ねえ、答えて。あなたたちは……何を知ってるの?」


 


 先に言葉を発したのは、奏だった。


 


 「凛……俺は、未来を知ってる。

  一度、君がいなくなった世界を、見たことがある」


 


 その言葉に、息が止まりそうになった。


 でも――すぐに神谷くんが口を開く。


 


 「俺も、同じだ。

  ……違う形で、君の終わりを見た。だから、やり直すチャンスを得た」


 


 私は、震える指先を胸元で握りしめた。


 


 「それって……どういうこと?」


 


 「病気で、君は学校を辞めて、誰にも言わずに入院して……それが最後だった」

 奏が言う。

 その声には、後悔と決意が混じっていた。


 


 「俺は……君の最期の“そばにいた側”だった」

 神谷くんの言葉には、静かな覚悟と痛みがあった。


 


 同じ結末。

 でも、見てきた景色が違う二人。


 


 私はたまらず叫ぶ。


 


 「なんで……なんで私だけ、覚えてないの!?

  私の命のことなのに、私の気持ちはどうなるの!?」


 


 その言葉に、奏も神谷も、はっとして目を見開いた。


 


 私は涙をこぼしながら、正直に言った。


 


 「私……もしも“もう一度チャンスがある”って言われても、怖い。

  だって、その記憶がない私って……あなたたちの“本当の凛”じゃないんじゃないかって、思ってしまうから」


 


 沈黙。

 でも、その静寂を破ったのは、奏だった。


 


 「違う。記憶がなくても、今の君は“本物”だ。

  この世界にいる君を、守れなきゃ意味がない」


 


 「俺も同じだ」神谷くんが続ける。

 「俺たちは、過去じゃなくて、“今の君”の未来を救いたい」


 


 私は静かにうなずいた。


 


 「だったら、お願い。

  “この世界”で――私の隣にいる君たちを、信じさせて」


 


 それは、まだ答えじゃない。

 でも、たしかな“始まり”だった。


 


 もう、隠しごとはない。

 これからの未来を選ぶのは――私自身だ。

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