第8話side:Kamiya「俺が救いたいのは、“今”の君だ」



 この世界は、一度終わっている。

 少なくとも、俺にとっては。


 


 橘凛が、転校して、静かに消えていった冬。

 誰にも告げずに入院して、ひとりきりで病室にいた彼女は、

 笑ってた。

 なのに、体はどんどん細くなって、声も弱くなっていった。


 


 俺は、何もできなかった。


 


 医者でもない。恋人でもなかった。

 ただ、少しだけ仲良くなっただけの“クラスメイト”。


 


 ――それが、後悔だった。


 最初からちゃんと見ていれば。

 もっと、声をかけていれば。


 


 あの日、目が覚めたら……

 俺は高校2年の教室に戻っていた。


 


 最初は混乱した。

 でも、すぐに理解した。


 これは「やり直し」だ。

 きっと誰かが、“凛を守るチャンス”をくれたんだって。


 


 だから、今度こそ俺は――

 この子の最期を、ただ見送ることなんてしない。


 


 だけど。


 


 桜井奏。

 ――お前の存在は、想定外だった。


 


 前の世界で、凛と桜井はそこまで親しくなかった。

 少なくとも、俺の記憶にある限りは。


 それなのに今はどうだ?

 彼は、凛の小さな異変すら見逃さない。

 付き合ってはいないはずなのに、まるで“すべて知っている”ような行動をする。


 


 (まさか、こいつも……?)


 


 その確信は、ある日の放課後に確定する。


 


 「お前、凛のことどこまで知ってる?」


 


 桜井の声。

 冷静なようでいて、奥に必死さがにじんでいた。


 


 (やっぱり――そうだ)


 


 「君も、彼女を守りたいって思ってるんだな」


 


 目の奥で火花が散るような気配。

 俺たちは“同じ場所”から来た。

 けれど、“見てきた凛”は違う。


 


 だから、きっと衝突する。

 きっと、譲れない。


 


 でも――俺が守りたいのは、未来の彼女じゃない。

 今、この時間を生きる彼女だ。


 


 過去がどうだったとか、未来に何が起きたとか、関係ない。

 今、そばにいて、笑ってくれる彼女を救えなきゃ意味がない。


 


 「……それは、こっちのセリフかもしれないよ」


 


 俺たちはきっと、似ている。

 でも、決して“同じではない”。


 


 運命が変わったこの世界で――

 彼女の未来を、誰が本当に守れるのか。


 


 それは、これから証明されることだ。

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