第7話side:Rin「どうして、奏はそんな顔をするの?」


 気づいていた。

 奏が、どこか“変わった”ことに。


 


 春のある日から、彼は少しずつ変わりはじめた。

 朝、私を気にかけて声をかけてくれるようになったり。

 ほんの小さな仕草や、目の奥の色が、昔より少し大人びていたり。


 


 不思議なことだった。


 だって、奏ってもっと子どもっぽくて、

 “親友”って感じで、こっちがからかってやるくらいがちょうどよかったのに。


 


 今の奏は――時々、すごく寂しそうな目をする。


 


 「凛が、消えないようにって思ってる」


 


 冗談っぽく言ったその言葉が、どうしてか心に残っていた。

 まるで私が、どこかに消えてしまうことを、

 本気で怖がっているみたいな顔で。


 


 私自身、最近ちょっと体が重い日が続いていた。


 貧血。立ちくらみ。息切れ。

 だけど、それくらい、よくあることだと思ってた。


 


 でも――奏はちがった。


 まるで全部知ってるみたいに、

 私の“見ないふり”を、するすると剥がしていく。


 


 そのことが、少しだけ怖かった。

 だけど同時に、うれしくもあった。


 


 * * *


 


 金曜日の体育祭予行。

 少しだけ体調がよくなって、はしゃいだら……またフラついて。


 


 そんなときに声をかけてくれたのが、転校してきたばかりの男の子――神谷くんだった。


 


 「だいじょうぶ? 顔、青いよ」

 「えっ……あ、うん……ちょっとくらくらしただけ……」


 


 普通ならスルーされるはずの、些細な異変。

 でも、彼は驚くほど素早く支えてくれた。


 それだけじゃない。


 「休んだほうがいいよ」とか、「保健室、付き添おうか」とか――

 まるで、私の状態を最初から知っていたかのように、気づいてくれる。


 


 その優しさに、私は一瞬だけ、奏の顔が浮かんだ。


 


 (……似てる)


 


 奏と神谷くん。

 どちらも、なぜか**“私を失うこと”をすごく恐れてるみたいだった。**


 


 ――なにか、知ってる?


 


 そう聞きたくなるような、

 だけど怖くて聞けないような、妙な違和感。


 


 昼休み、神谷くんと並んで歩いていたら、

 遠くに奏の姿が見えた。


 


 あのときの彼の表情が、忘れられない。


 まるで、奪われたような顔をしていた。

 言葉も、笑顔もない、ただまっすぐに見つめてくるだけの目。


 


 (奏……どうして、そんな顔するの?)


 


 わたしの知らないことを、

 あなたはどれだけ抱えているの?


 


 そして、

 わたしは――どれだけの未来を、知らずにいるんだろう。

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