第6話「彼女をめぐるもう一人」


 金曜日、体育祭の予行。


 グラウンドでは、陽射しの下で笑うクラスメイトたちの声が響いていた。

 凛は応援団のサブリーダーという役割に任命されていて、

 ほんの少しだけ張り切っていた。


 


 「走るのは苦手だけど、声出すのは得意かも」

 「無理すんなよ。倒れたら意味ないから」

 「はいはい、わかってます」


 


 凛の笑顔を見て、安心する。

 確かに――未来は変わってきている。

 でも、すべてが思い通りにいくわけじゃなかった。


 


 昼休み、彼女が誰かと並んで歩いてくるのを見て、

 俺の胸がざわついた。


 


 「奏~! こっち来て!」


 


 凛が手招きしていた。

 その隣には、見知らぬ男子生徒が立っていた。


 


 背が高く、整った顔立ち。

 どこか落ち着いた雰囲気のあるその生徒は、

 凛と自然な距離で話していた。


 


 「紹介するね。神谷くん。最近転校してきたの」

 「……神谷?」


 


 未来の記憶にはいない名前。

 初めて見る顔。

 そして――凛と自然に親しげに話す存在。


 


 「桜井奏くん、だよね。凛からよく聞いてる」

 「……そう」


 


 神谷の瞳は、どこか“知っている”ような眼差しで俺を見ていた。


 


 (こいつ……ただの転校生か?)


 


 昼休みが終わったあとも、神谷は凛の近くにいた。

 何かを守るように振る舞い、

 彼女の体調にまで気を配る様子があった。


 


 (……まさか)


 まさか、こいつも――


 


 放課後。

 俺は意を決して、神谷に話しかけた。


 


 「お前、……凛のこと、どこまで知ってる?」


 


 神谷は少しだけ驚いたように目を開き、

 それから静かに笑った。


 


 「君も、彼女を守りたいって思ってるんだな」


 


 その一言に、背筋が凍った。


 


 (こいつも、知ってる――未来を?)


 


 何者だ?

 この“思い出せない未来”に現れた、彼女をめぐるもう一人の存在は。


 


 「……あいつに近づくなとは言わない。

  でも、下手なことするなら……許さない」


 


 そう告げると、神谷は目を細めた。


 


 「……それは、こっちのセリフかもしれないよ」


 


 警戒と警告が交差するようなやり取りだった。

 この世界には――俺以外にも、“知っている”やつがいるのか?


 


 未来を変える戦いは、

 もう“俺一人だけのもの”じゃないのかもしれない。

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