第四章 昼の声、久遠が目を覚ます
朝陽が現れてから、夜凪は“変わった”。
綾斗はそれをなんとなく感じ取っていた。
笑い方が、ほんの少し、軽くなった。
言葉の選び方が、どこか丸くなった。
「最近、疲れてる?」
「そう見えますか?」
「……いや、なんとなく」
朝陽の時、夜凪は綾斗に優しかった。
でも、それはあくまで
“保護者のような優しさ”だった。
綾斗の問いかけに、彼女はよく笑い、
よく応じたけれど
——“夜凪”らしさが、少しずつ溶けていった。
そして、ある夜。
夜凪は誰にも言わずに店を休んだ。
電話もメッセージも既読がつかず、
綾斗は不安を抱えて夜凪のアパートを訪れた。
チャイムを押すと、少ししてドアが開いた。
そこに立っていたのは、
夜凪の顔をした誰かだった。
「……誰?」
綾斗がそう言いかけた時、彼女は静かに言った。
「久遠、です」
「夜凪は、少し休んでる。だから代わりに出た。
心配するのは、ありがたいけど……
君も無理しないで」
その声は落ち着いていて、どこか知的だった。
夜凪の癖だった
“左手で前髪をいじる仕草”もなければ
視線を逸らす様子もない。
まるで、綾斗を“観察している”かのようだった。
「……あなた、夜凪の何?」
綾斗の問いに、久遠はほんの少しだけ微笑んだ。
「彼女の中の昼。理性。調整者。
……そんなところかな」
綾斗はそれ以上、問いを重ねられなかった。
自分が見ていた夜凪が、
ほんの一部でしかなかったことを
直感的に悟ったから。
ドアが閉まり、しんと静まり返るアパートの廊下。
綾斗の胸の奥で、何かがひそかに軋んだ。
——違う。
目の前にいたのは、夜凪じゃなかった。
けれどそれでも、
“あれ”は確かに夜凪の一部だった。
この日から、綾斗の中で
「何かが起きている」という確信が
少しずつ芽吹き始める。
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