第10回 自滅する農水省
令和7年6月16日、小泉農水大臣が米の作況指数の公表をやめると発表しました。ですがまだ、米の需要予測が実態に合っていないことを認めてはいません。あくまで調査方法に問題があり、農水省の予測方法には問題ないとする立場です。
そもそもの話ですが作況指数の統計方法が間違っていたのかどうかですが、この手の統計は同じ手法をとることに意味があります。
基本的な手段は全国8000ヵ所を手で刈り取り米を篩にかけてから量を調べます。これを過去のデータから平均をとり比較して指数を出します。
この指数が実際の流通量とずれているとの指摘があるわけですが、実は統計の手法に問題があるわけではありません。
ずれが出る原因は三つあり、一つ目は昔よりも米の品質を上げるために統計用より集荷用の篩のほうが目が大きいものを使っています。こうすることで大きな粒を集めて販売できるようになります。当然統計よりもはじかれる籾がふえますので流通量は減ります。
2つ目は手で刈ると籾をできるだけ集められますが、大型の機械を使うと収穫しきれない籾が増えます。大規模な経営体であればあるほど刈り残しに対応できなくなります。AIとGPSを使って農業をしていてもこぼれた籾を拾ってくれるわけではありません。零れた籾を拾う時間は次の稲刈り作業の時間に回すほうが効率が良くなります。結果面積当たりの収量が減ります。
3つ目が近年問題になっている高温障害とカメムシ被害です。これらの問題で未成熟米や斑点米が増え、統計では数えられる米が流通段階では不適格であるとして取り除かれます。
統計の数値と精米の流通量の違いは近年に始まった話ではなく、玄米の量でその年の生産量が確定できるので、作況指数よりも玄米の量が減ったと発表するだけで、指針となる数値の発表を控える理由にはなりません。さらに言えば現場では、天候や虫、病気の影響を収穫前に把握してますので令和6年産米の収穫量についても早い段階で作況指数よりも少ないと農家が言っていたわけです。
現場でどのような作業が必要になるのか知っていれば、昔と違い農作業の機械化、機械の大型化、品質向上のための検査、色選別機の導入などで商品にならない米が増えていることに気付くはずです。ところが今回の小泉農水大臣の対応は作況指数に問題があるとするものでした。問題があるのは手に入れた数字を分析できない農水省と大臣です。近年の米の生産量の減少と需要の増加から推測される事実を問題としてとらえることがでていない結果が米の高騰です。
第1回から主張していることになりますが、自然を相手にしていることに絶対はありません。統計上の数字や予測値などというものは違っていて当たり前です。必要なことは予測された数字と現実の数字が合わないときにその原因を分析することです。
令和6年産米の生産量は作況指数よりも少ないと疑いをもたれるところまできました。ですが、これだけでは令和7年5月までにここまで米が高騰した理由には追い付きません。米不足のほかにも米の需要が増えていることを認識しなければ米の需給バランスがとれないままです。
農水省の失態はこれだけにとどまりません、今農水省内で起こっていることは膨大な事務作業の増加による残業です。
なぜ、事務作業が発生しているのかといえば随意契約備蓄米を引き渡すための手続きです。
6月16日にCBCより、精米作業をする卸売業者のところにいまだに随意契約備蓄米が届いていないと報道がりました。随意契約備蓄米の販売発表があった当時の報道では随意契約の備蓄米がすぐに入荷し、入札備蓄米が後で精米される予定でした。ところが随意契約の備蓄米が届かないため、取材時点では入札備蓄米の精米しか行われていません。
ほかにも随意契約備蓄米の入荷時期が不明であるとする報道があります。入札備蓄米が3月中旬に落札されて、4月中には全量契約済みになったことを考えますと、5月末に契約された備蓄米が7月上旬までに引き渡しできなければ随意契約にした意味が無くなります。日本全国で随意契約備蓄米が販売されたとの報道もありますが、ほとんどが一部店舗の一時的な販売です。30万tの備蓄米のうちのごくわずかが販売されただけで、ほとんどは販売済みの米の引き渡しが行われていません。
なぜこのようなことになったかといえば、本来問屋を通して配分調整するところを農水省内で事務手続きを行っているためです。農水省職員の人件費分で問屋に外注したほうが経費が抑えられるかと思いますが、恐らく問屋の存在理由を農水省職員がもっとも実感していることでしょう。
さらに追加で普段調査対象外の業者にも米の流通状況の確認をするようです。民間在庫の減少量から需要量を計算するだけで終わる話なのですが、また無駄な作業が発生します。
結局のところ行政が米の増産をしたくない(政治家は役人の言いなり)ことと、米を輸入したい小泉農水大臣が米の需要が予想より多いこと認めない為、米の高騰が続いています。需要予測の修正が行われない限り適切な米生産量が計画されない為、米の供給不足が続きます。
米が昨年に比べ2倍以上に高騰したことに陰謀論を唱える方がいますが、実はこの現象は投機をしている方の常識で株式市場の値動きで説明ができます。
通常上場企業の株は大株主が売りに出さない固定株と株式市場で売買される浮動株があります。どれだけ多く株券が発行されていても固定株が多くて浮動株が少ない企業の株は流動性が低いと判断されます。
流動性の低い株は取引き材料になる案件があれば値動きが激しくなり値幅も大きくなります。
米のスッポト取引価格も株式市場に近い性質があります。長期契約をして買われる米は固定株、スポット取引される米は株式市場で取引される浮動株となります。米不足となり市場に供給される米が減ると米の希少性が高くなり値上がりしやすくなります。米が例年通り収穫できたとしても、米の長期契約が増え市場に流れる米が減少すれば、流動性が減り米の価格変動の幅が大きくなります。
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