第9回 大規模農家は増えるのか

 よく、米の生産性を上げるのに農地を集約して大規模化すべきとの意見があります。経営の効率化という点でいえば間違いなく正しい意見です。

 ただ、現実問題として大規模化された農地が実現されたときに何が起こるのかを想定しなくてはいけません。先進技術を使うことと、使った先進技術がその土地にあっているかは別問題になります。


 農地の集約から話を進めると不可能で話が終わりますので、農地が集約できた場合で考えます。

 令和3年の農水省のデータより米だけで所得500万を超える収入を得られる水田の面積は一経営体あたり15ha以上となっています。東京ドーム3個分になります。令和7年の予定生産量が719万tで、令和6年の米生産量が作付面積125万ha、680万tとすると令和7年の作付面積が8万ha増え133万haとなり、133万haの水田を経営するのに必要な経営体数は約9万になります。

 2020年の水稲経営体数が71万であり、これが9万まで減るということは市町村の米農家が8分の1に減少することを意味します。結果、水田周辺のコミュニティが崩壊します。伝統行事の担い手や文化を継承する人材がいなくなります。山間部の人口が減り、里山を維持する力が失われますので都市部に降りてくる野生動物が増えます。

 農家が地方に住んでいるのは農業に従事するためです。農業に従事するため東京に働きに出るなどということはありません。よって地方の人口は減少します。


 極端な例で大規模化の弊害を紹介しましたが、今後大規模農家の割合が増えるのは確実なことです。年齢を理由に廃業する農家が増え、手放した農地が集約されていく流れは止まりません。ただしこの流れにも限界があり、限界を超えると地域社会が崩壊します。

 AIやドローンGPS管理など農業の省力化に改善の余地はありますが、単純に人口密度が減り、既存のインフラが維持できなくなります。道路や電気、ガス、水道の保守管理は利用者がいることで維持されますが、人口密度が減ればその分住民の負担が増えます

 結局のところ誰がするのかという問題が解決していません。大規模経営すればコストが下がり、安い農作物が手に入るというのは、消費者目線の話であって、農家の利益ではありません。コストが下がり利益が増えるから大規模化できるのです。


 今後更に加速して減っていく米の生産量を増やすための手段として、農地の大規模経営というのは米不足解決手段の一つではあります。ただし、大規模化にかかる投資を回収できるだけの利益が得られなければ作付面積は増えません。

 令和7年産米の作付面積が増えたのは令和7年1月時点で米の値上がりが期待できたからです。仮に令和7年産米の買取価格が昨年の価格を超えなければ、令和8年の作付面積が減少します。次の米不足が起こり非課税の輸入米が増えるようなことがあればさらに米の生産量が減ります。


 今回の主題はあくまで農家が大規模化するには利益が必要であるということです。米の価格が高止まりしている現状を正当化するものではありません。

 米の生産流通コストを減らすのであれば、ガソリン減税が最も確実です。米の生産だけでも、耕起、田植え、草刈、稲刈り、収穫後の米の乾燥等に燃料を使います。集荷された米の輸送コストにも当然影響します。

 令和7年6月時点での政府方針は米の生産を抑制する方向に向いています。この状況で高額な機材を必要とする農業の大規模化は米価格の高騰問題と安定供給に対して矛盾しています。

 

 今だに農水省は米不足を認めてはいませんが、過去5年間の米の生産量と需要量を比べれば民間在庫が減っているのは明らかです。また米農家の平均年齢も否定出来ない事実です。


 2014年からの主食用米の需給及び6月末民間在庫の推移と農水省予測値です。6月末在庫の適正値は180~200です。(単位万t)


 年        前年生産量   需要量   6月末在庫

 2014年     818    787    220

 2015年     788    783    226

 2016年     744    766    204

 2017年     750    754    199

 2018年     731    740    190

 2019年     733    735    189

 2020年     726    714    200

 2021年     733    704    218

 2022年     701    702    218

 2023年     670    691    197

 2024年     661    705    153

 2025年     679    ???    ???


 2025年予想   679    674    158

 2026年予想   719    663    178


 令和7年6月時点で小泉農水大臣は米不足を認めていません。卸売業者が米の流通を止め米不足感を出していると主張しています。農水省予測値には備蓄米は含まれていません。すでに令和7年6月末民間在庫が政府予想より減少していることは確定しているのですが、なぜかJA及び卸売業者悪玉説を唱える方は民間在庫の減少を認めません。2024年産米が2023年米より生産量が増えたことを根拠としているようなのですが貯蓄の概念がないのでしょうか?大臣含めこれが日本人のレベルということです。


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