第6回 備蓄米追加放出について
本当はもう少し農家や小売りの状況に言及していきたいのですが、今言及しなければならないことが多すぎて困ったものです。
さて、備蓄米2021年産10万tと2020年産10万tgが随意契約で放出されると発表がありました。この追加放出が何をもたらすのか考察します。
まず、今回の発表でさらに米価格の値下がりが確実になりました。推測になりますが前回放出された備蓄米の精米終了が6月末ごろと予想されておりますので、追加放出分の精米終了は7月末ごろと予想できます。今回も備蓄米販売対象が小売店となります。小売店に卸される米が過剰である状態が続きますので米のスポット価格がさらに下がることが予想されます。
スポット価格とは、株取引のような市場で米が売買された時の金額で決まります。簡単に言えば日経平均のようなものです。米が必要な業者が増えれば取引価格が上がりますし、売りに出される米が増えれば価格は下がります。取引が確定した米が店頭に並ぶまでに時間がかかるため、今のスポット価格が店頭価格に反映されるまで時間がかかります。
店頭価格が下がった状態で在庫が余っていればさらに値下がりが期待できるため、店頭に備蓄米がある状態が長いほど米の値下がりが期待できます。
今回の備蓄米追加放出は米価格を下げる効果としては有効なのですが、強烈な副作用があります。
前回の随意契約備蓄米は大手小売店が限られた地域での販売を優先させたため、販売エリアが関東エリアに集中しました。一応札幌、福岡でも販売されたようですが一部地域に一時的に流通しているだけです。追加の放出分の販売先が関東中心になれば地域格差がさらに広がる可能性があります。関係ないですが小泉農水大臣の選挙区は神奈川11区です。
大手小売店に備蓄米が並んだ結果、まず店頭に備蓄米以外の米も店頭に並ぶようになりました。理由は2つ、備蓄米を入荷する場所を作るためバックヤードの在庫を売り場に出す必要ができたこと、あとは今までは転売対策として一度に米が買われないように少しずつ店頭に米並べる必要がありましたが、十分な量の低価格米が出てきたため米を隠す必要がなくなったためです。卸売業者が米価格高騰を狙って流通量を減らしていたのではなく米の買い占め対策です。
大手小売店の倉庫に備蓄米が積まれ、備蓄米があることで販売量が減ったブランド米はより小さな小売業者や地方に流れたうえで、米買い占め懸念が減ったために、地方の小売店でも米が店頭に並ぶようになりました。ただこの状況は大手と中小、都市と地方の格差を生んでいます。この問題が解決しない状況での追加放出となりますので、大都市では安い米が購入でき、地方は高い米が並んだままになっています。
これが地方では備蓄米が放出されても米価格は下がらないうえにブランド米が山積みになっている原因です。
この状態であと三週間も経ちますと、米の大量放出で余った米が精米してからひと月が経ち見切り品としての扱いを受け始めます。ここに追加の備蓄米が加わります。
消費者目線でみればいいことなのですが、今回の件は農水大臣が農家に喧嘩を売りました。
これから備蓄米の影響でどんどんスポット価格が値下がりしていきますが、7月8月のスッポト価格が下がりますと集荷業者が農家に払う買取金額も下がります。今年の異常な米の値上がりに比べ、去年農家に支払われた買取金額多少高くなったとはいえは低いものでした。このまま高値が続けば今のスポット価格が反映され農家が潤うことになったのですが、これが無くなります。
そして備蓄米が無くなり令和7年の米の在庫量が確定しますとまた米が値上がりします。この推測の根拠は、今年の米の作況指数が平年並みであれば収量が719万tであり、令和7年の米消費量が700万t以上となるため枯渇気味の民間在庫が危険水準から脱しない可能性が高いためです。
米を売った時には安い金額で買われ、農家に関係ないところで高値で取引され、高値で買われると思っていた米が安く買いたたかれる構図になります。
特に悲惨な農家は今年の米の値上がりを期待して設備投資をして米を増産する方でしょうか、米不足を解消するための努力をした結果、投資が裏目に出る恐れがあります。JAが昨年の失敗を反省して対策をとらなければ今回を機会に米生産者が減ることになります。
さらに追い打ちをかけるのが農水大臣が米輸入を認める発言をしている点です。ただでさえ米価が下がっているところに関税が下がった輸入米が増えれば農家が増えることが無くなります。下手を打てば5年以内に米農家が激減します。
備蓄米追加放出で悪影響を受けるのは農家だけではありません。今年は補助金をもらって飼料米を作っていた農家が主食用米に切り替えた可能性が高いです、おおよそ20万tです。そのうえ2020年産米を10万t放出します。これは2025年産米が収穫された後、飼料米になる予定の米です。単純計算で30万t国産飼料米が減ります。飼料が高騰するので肉、卵が値上がりします。
輸送にも懸念があります。まず単純に輸送容量の問題で、これから暑くなり飲料の輸送量が増えます。備蓄米追加で輸送枠が足りなくなる懸念もありますが、猛暑の中重量物を運ぶことになります。荷揚げ、荷下ろしに相当な追加負担が発生しますが、この点がすでにTVでも報道されています。また、温度管理が必要な米が暑い時期に大量に出回ることになります。酷暑のなかで輸送や保管することになれば米の品質が落ちます。この点の対処能力には疑問が生じます。
最後に入札された備蓄米の扱いです。第4回でも説明していますがJAは落札した備蓄米を全量契約済みです。半分の備蓄米が出荷済み、4分の1が出荷時期の決まったている分、残りの4分の1が出荷時期が決まっていない分になります。
重要な点はすでに販売契約が行われており、米を受け取る時期は小売り側に決定権があります。随意契約の備蓄米も同じですが精米能力に限界があるため、倉庫から出た米がすぐに店頭に並ぶわけではありません。
随意契約米も流通が始まったといっても全量精米済みになったわけでもなく、精米出来た分だけ、限られた店舗で販売されているだけです。
今精米所で起きていることは、備蓄米が放出される前から依頼されていた米と江藤米とナナヒカリが精米作業枠を争っている状況です。精米作業依頼をかけるのは購入側になるので優先して精米されるのは定期的に精米依頼がかかる分と、小売店が売れると判断する米になります。
小売側の立場で考えればナナヒカリは自前の倉庫に置く形になりますので、購入後すぐ販売する必要がありますが、江藤米は自前の倉庫に置く必要がない分販売時期を遅らせることができます。これがナナヒカリのほうが優先して販売される理由になります。
ここで更にナナヒカリが追加されることとなりました。江藤米がさらに流通しにくくなるわけですが、これは小売側の問題であってJAや卸売業者の問題ではありません。
こちらは推定の数字になりますが、
令和5年 生産660万t 消費700万t 民間在庫40万t不足
令和6年 生産680万t 消費700万t 民間在庫20万t不足
令和7年 生産720万t 消費720万t 民間在庫過不足なし
備蓄米放出80万t 累計不足60万t 民間在庫20万t増加
令和7年の消費が720万tの理由は、本来の消費が700万tのところに過剰の供給があったため処分価格になる米が増加することを見込んでいます。処分価格の米が購入されるにしろ飼料にされるにしろ精米してから一定期間過ぎた米は消費扱いとなります。
いまはTV報道やネットの意見では店頭に米が並び始めたため、米不足ではなかったJAや卸売業者が不当に米の価格を上げていたとする意見が多いですが、令和6年産生産量に備蓄米が60万t供給された結果の現象です。
米の消費動向調査結果によりますと家庭での米の消費は家庭消費7割、外食中食消費3割であり、米の購入場所がスーパーが5割となっています。
給食や学食などの食堂事業が計算に含まれていないと考えますと、小売で販売されている米の量は全体消費量の3分の1前後となります。
ひと月当たりの米の消費量を60万tとしますと小売の販売量は20万tです。
備蓄米放出以前の米入荷量が発注数量の8割以下だったことを考慮しますと、備蓄米以外の入荷が15万t、精米作業が追い付けば月当たり35万tの米が店頭に並びます。
令和6年産米の供給量は生産680万tと備蓄米80万tで760万tとなりました。令和7年産米の供給量は720万tですが備蓄米はありません、今後どうなるのかわかりませんが小泉農水大臣が今年の秋に継続して大臣職に就きコメ問題の責任をとることはないと予想しています。
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