第2回 店頭に米が戻った後に起こること

 米の流通について消費者に見えない米の説明をしようとしていましたが、令和7年6月現在小売店に大量の米が補充される現象が起きておりますので、先にこの現象から起こる問題点を2点指摘しておきます。


 まず、なぜ急に大量の米が売り場に並ぶこととなったのか?ですが、答えは精米所が限界まで稼働しているからです。

 具体的な資料はないので状況からの推測となりますが、近年の米需要量720万tとしますと単純計算で全国でのひと月当たりの精米能力は60万t前後となります。

 季節により繁忙期や閑散期があるとは思いますが、季節ごとの人員調整が行われるはずなので通常は緊急かつ大規模な精米作業に対応できません。

 ところが令和7年5月の状況ですが、通常業務の推定60万tに加えJAが落札した備蓄米5月精米予定分7万tと随意契約20万t追加されました。本来のキャパシティの1.5倍の作業量が精米所の負担となっていることはTV等でもよく報道されております。

 

 ただ、ここから先については報道での確認しておりません。JAの備蓄米がスーパーの店頭にほとんど並んでこなかった理由にもなりますが、精米された米はすべてが小売店に並ぶわけではありません。JAは落札した備蓄米の多くを小売店以外に卸しています。具体的には学校給食、病院、外食産業、弁当屋など米を提供する店舗などです。

 JAに限らずですが米卸業者は小売店に卸す以上の米をほかの米消費先に卸しています。また、これらの米消費先は必要な米の量が事前に計画できる業種になりますので、米の需要が急激に変化することはありません。

 そこで今回の随意契約ですが、直接小売に20万t卸すことになりました。精米された米の何割が小売店で流通しているのかの資料を持ち合わせておりませんが、通常小売で販売される以上の米が店頭に並ぶこととなりました。

 今まで小売店が店にある在庫米を店頭に並べてこなかったことには理由がありますがそのことは別の機会に説明させていただくとして、大手小売店の売り場に備蓄米が並ぶことになった結果、すでに精米され商品化された米を急遽処分せざるを得なくなりました。これで米の店頭価格が下がってめでたしめでたし、となってくれればよいのですが問題はここからです。


 問題点1つ目ですが、まず随意契約の備蓄米が余った場合を想定すると何が起きるか考えてみます。

 一度精米した米は消費期限があります。ここで何が問題になるのかといいますと、米の流通にかかわる業者が需要に合わせて精米しているところに20万tの備蓄米が上乗せされ余るわけです。ついでに言えば21年産の備蓄米がコンビニ各社で販売されますので10万tも追加です。余った米は再度備蓄に回すことはできませし、消費期限を迎えた米は主食用米ではなくなります。つまり放出された随意契約の備蓄米は売れなくても8月までに無くなります。

 備蓄米がほぼない状態で令和7年産米の価格が下がるかといえば、前回の資料で示した通り60万tの備蓄米を補うだけの供給がない以上米は高騰します。


 随意契約備蓄米がすべて売り切れた場合は簡単です。農水省の試算以上に米の需要があり備蓄米がない状態で8月になります。当然米は高騰します。


 随意契約の備蓄米が調整されず小売店に卸されたため、米卸業者が精米済みの米を積極的に流通させるようになりましたが、この現象は店頭に備蓄米が並んでいる間だけです。米価格一定期間値下がりする効果がありますが次の米の当てがない限りまた高止まりする恐れがあります。


 問題点2つ目は、中小の米穀店で深刻な赤字が発生します。今回の米不足では米が入荷できなかった老舗の米穀店が廃業したとニュースにもなっていました。米価格高騰により米屋が儲かっていると思われがちですが米卸業者と米穀店は別です。

 特に今回は小泉農水大臣が就任する前に中小の小売りにも米が届く枠組みが作ってあったところ、それを白紙にした上で大手企業優先の政策が実行されました。結果高値で買った米が売れずに残る結果になります。現状は地方や中小の米穀店が取り残される結果になっています。さらに酷い話になるのは米がないお客さんのために高い米を頑張って仕入れた店ほど被害が増えます。


 令和7年6月上旬時点で、わずかですが随意契約の備蓄米放出の問題点を報道するところも出てきています。今回何が問題であったのかを検証し、今後につながる政策を実行して頂きたいものです。


 なお、批判ばかりしてアイディア無しというの締まりが悪いので、実現してほしかった案がいくつかあります。


 まずは18歳未満の子供と75歳以上の高齢者に対し米5kgを無償提供、総数4千万人以下に5kgであれば20万t以下なので単一年度で配れます。

 

 備蓄米を放出する際は玄米で販売を行う。大手企業から販売が行われたとしても米穀店に精米機がある可能性が高いので備蓄米の流通から外れた業者にもなんらかの恩恵をもたらせたはずです。また精米を省くことで流通の手間を減らし、精米時期を任意にすることで消費期限切れになる米を減らせます。


 すでに放出する備蓄米が無くなっていてはただの机上の空論ですが、税金が投入されている以上、備蓄米の恩恵が一部地域や一部企業に集中するよりは健全であったかと思います。

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