昨今のコメ問題に思うこと

2等米コシヒカリ

第1回 なぜコメは高騰したのか

 米に限らず物の価値は需要と供給で決まる。これに異論のある方は以降の文章に読む価値がありませんのでご了承ください。


 需要と供給で価格が決まるのであれば、価格高騰の原因は需要の過剰もしくは供給の不足となります。

 本来文章に纏めるのであれば、需要側の要素と供給側の要素を章立てして分けるのが正解なのですが、この問題は論点が多岐にわたる上、日々情報が更新され、且つ注釈抜きの情報が誤解を拡大していくという悪夢のような状況にあります。

 あくまで現時点で公開されている情報に対し補足や疑問の指摘をつけていくこととします。


 さて、結論ですが米価格高騰の原因は需要の過剰と供給の不足にあります。

 何を当たり前のことをと思われるかもしれませんが、農水省ですら正確な現状把握ができていないもしくは把握をしていても公開情報の修正をしていない以上、実際に米の需要があり、米の生産が足りていないこと前提とし認める必要があるのです。前置きが長くなっておりますが根拠となる資料が以下の通りです。


 令和6年以降の主食用米の需給見通し


 令和6年6月末民間在庫・・・・・・・153万t

 令和6年産生産量   ・・・・・・・679万t

 令和6年6月末供給計 ・・・・・・・832万t


 令和6年主食用等需要量・・・・・・・674万t


 令和7年6月末推定民間在庫・・・・・158万t

 令和7年産推定生産量 ・・・・・・・683万t

 令和7年6月末供給計 ・・・・・・・841万t


 令和7年推定主食用等需要量・・・・・663万t


 令和8年6月末推定民間在庫・・・・・178万t


 こちらは備蓄米放出前の国の基本方針となります。農水省のHPなど調べていただければ同じ数字を拾ってこられると思います。数字の見方は、


 1,在庫と生産量を足し、需要量で引けば翌年の在庫となるのを繰り返しています。

 2,6月末民間在庫が180~200万tが基準値であり、少なければ米が高くなり、多ければ米が安くなります。

 3,備蓄米放出決定後、令和7年推定生産量が719万tとする資料もあります。

 4,令和6年3月末民間在庫が179万tであったと報道されています。


 農水省はこの数字を元にした上で米が足りていると発表していましたが、結果備蓄米61万tが放出されました。今後の見通しについても令和7年産米の収穫後の見通しは示されず、令和8年産米の収穫後ごろに米価が5kg3500円程度と予想するTV局もあります。本当にそうでしょうか?


 次の資料は国の基本方針を受け、6月上旬にJAが農家に説明した内容になります。


 令和6年以降の主食用米の需給見通し(JA試算)


 令和6年6月末民間在庫・・・・・・・153万t

 令和6年産生産量   ・・・・・・・679万t

 備蓄米放出      ・・・・・・・ 61万t

 令和7年6月末供給計 ・・・・・・・893万t


 令和6年主食用等需要量・・・・・・・674万t

 直近の民間在庫を考慮 ・・・・・・・ 39万t

 

 令和7年6月末推定民間在庫・・・・・180万t

 令和7年産推定生産量 ・・・・・・・719万t

 令和8年6月末供給計 ・・・・・・・899万t


 令和7年推定主食用等需要量・・・・・663万t


 令和8年6月末推定民間在庫・・・・・236万t


 こちらの資料では注目点が3つあります。


 1,供給に備蓄米が計上されていますが、備蓄米補充の目途が立っていないため、民間在庫に61万tが加わったままになっています。

 2,直近の民間在庫を考慮の数字の算出方法は国が公表した2月末時点の民間在庫の対前年差39万tを考慮しています。

 3,令和7年産推定生産量の増加は、加工米や飼料米から主食用米への作付け変更と令和7年産備蓄米を主食用米生産量に組み込む等が理由となります。


 これら2つの資料からわかることは


 1,令和5年米需給が生産約660万t、需要約700万tであり40万tの米不足である状況で、農水省令和6年見通しが生産679万t、需要予想674万tであったことから、令和6年の生産量では前年の不足を補えるものではないことがわかります。このことから令和6年が不作かどうかに関わらず供給が不足していたことの根拠になります。

 2,令和6年主食用等需要量が実態に合っていないためJA試算では修正が行われています、米穀安定供給確保支援機構発表による国民一人当たりの米消費量が令和5年と令和6年で大きな差がないことを踏まえると、令和6年主食用等需要量は700万tを超えていたことになります。これは農水省の需要予想超えるものであり、令和5年が40万t米不足であったことを考慮すると2年連続で需要過剰であったことが確認できます。

 3,令和7年5月末時点で農水省は主食用等需要量予想の修正をしていません。備蓄米が備蓄倉庫から出された時点で品質の問題で備蓄米としての保管ができなくなります。つまり放出された61万tの備蓄米はすべが国民の口に入らなくても61万t消費した扱いになります。この過剰消費がどのような影響を与えるか予想が困難ですが、精米されたお米には消費期限がありそのままの数字で民間在庫として計上できるものではなくなります。

 4,JA試算では令和8年6月末推定民間在庫236万tとありますが農水省の需要予想があっていた場合、且つ備蓄米を再度補充しない場合の数字なので、令和2年産備蓄米20万tが令和7年産米収穫後に保管期限を超え、飼料米として処理されることを踏まえると、民間在庫236万tは米価を安定させる数字ではないと考えます。


 なぜコメは高騰したのかを考えるに最大の要因は予想と現実が乖離しているにも関わらず前提の数字すら修正されていないことにあります。どのような政策も前提が間違っていれば意味がありません。

 前提が間違っていることに気が付いていた業者が対策をとって利益を上げたとしてそれは間違ったことでしょうか?令和6年8月に米が枯渇したことを考えれば民間が独自の対策をとるのが当然です。価格が上昇して需要が抑えられるのは経済の原則であり、価格の上昇による不都合に対応するのは政治の範疇です。

 今回のコメの高騰の発端が行政にある以上、対策をとる責任は政府にあります。

 農水省の資料からいまだに本当の意味での対策が取られていないことが読み取れることからコメの安定供給はまだ先のはなしとなりそうです。

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