【リライト①】『宇宙樹の生贄~アムルと不思議な竜〜』風雅ありす様

【原文】『宇宙樹の生贄~アムルと不思議な竜〜』第十五話 ウィンガム一の舞姫


【作品タイトル】『宇宙樹の生贄~アムルと不思議な竜〜』


【作者】風雅ありす


【作品URL】https://kakuyomu.jp/works/16817330654352003830


【該当話直リンク】https://kakuyomu.jp/works/16817330654352003830/episodes/16818093084380432992


【作者コメント】独自の世界観設定があるため説明が難しいのですが……イサール(身体は男だが心は女)は、ウィンガムという街で舞を披露することになります。この時の、舞の描写を他の方が書くとどうなるのか、リライトしてほしいです!


 動きや使う小道具など、自在に変えてOKです!


 

【リライト者コメント】

 というのが原作者である風雅さんの要望ですので、物語全体の話の前後はわからないので、矛盾する箇所もあるかも知れないのですが、自分なりに短編としてリライトさせて頂きました。少量の文章の追加と行間を自分が読みやすく詰めました。参加させて頂きありがとうございました。


 ==▼以下、リライト本文。============




「さぁさぁ、みなさん聞いていって、見ていって。ウィンガム一の舞姫が踊りますよぉ」舞姫と言っても本当は男なのだ。


 街の広場で、アムルが大声をあげて、手を叩く。

 道を歩いていた数人が、何事かと視線をよこすものの、足を止めてくれる人はいない。それでもめげずにアムルは、イサールに向かって力いっぱい拍手をした。


「さっ、イサール踊って」


 拍手に出迎えられたイサールが微笑みながら前へ出る。


「えー、ではっ...て、踊れるわけないでしょーっ!」


 流れで踊りそうになったイサールが、反論の声をあげる。良いことを思いついた、と言ったアムルに半ば無理やり連れられて来たものの、ようやく自分が何をさせられそうになっていたのか気付いたのだ。


 アムルが、不満そうに唇をとがらせる。


「どうして? ワトルが褒めてくれるくらい踊りが上手だったんでしょう?」


「それは、もう二年以上前のことよっ。大体どうしてそれが、こんな場所で踊ることになるのよ!」


「イサールの舞を見れば、きっとみんな、イサールの話を聞いてくれるんじゃないかな。そうしたら、風樹のために祈ってって、お願いすればいいよ!」


 名案でしょう、とアムルが笑顔で両腕を広げてみせる。


 イサールは、肩を落として溜め息をついた。


「どうやったらそういう発想になるのよ...」


「それとも舞が上手っていうのは嘘なの? 実は、みんなに見せられないくらい下手くそなの?」

 ひくり、とイサールの頬が引きつる。アムルの言葉は、イサールの承認欲求に火をつけた。決して嘘ではないのだが、人前で踊ることに抵抗があるのだ。


「くっ……言ったわね。いいわ、見てなさいよ。私の舞を見て、惚れないでよ」

 そう言ってイサールは、アムルに向かって片目をつぶって見せた。


 まんまと乗せられた気がしなくはなかったが、イサールの中に、舞に対する懐かしい想いが湧いてきていたのは確かだった。ワトルの部屋で、あのタペストリーを目にしたせいだろう。

 でも、不思議と嫌な気持ちではない。アムルの笑顔を見ていると、深刻に悩んでいる自分がばかばかしく思えてくるのだ。

 旅先で、音楽に合わせて舞を踊ったこともある。足腰も衰えてはいないはずだ。

 イサールは、 懐から小銭入れを取り出して、アムルに投げ渡した。きょとんとした顔でそれを受け取るアムルに、小銭入れを叩くよう手で合図する。

 それから、髪留めに使っていた飾りを二本引き抜き、それらを重ねて打ち鳴らした。細長い銀色の先端からぶらさがる飾りがしゃらん、と繊細な音をたてる。

 最後に、自分の腰に巻いていた薄布をほどき、肩にかけた。そして、その場で軽く飛び上がる。しゃん、と手にした飾りが開始の合図を鳴らした。


 長い手足を自由自在に動かして、イサールが躍る。のびやかに、しなやかに、地を蹴り、宙を舞い、地を滑るように這う。イサールが動く度に翡翠色の長髪がふわりと舞い、風もないのにまるで風が吹いているかのように見えた。非常に軽やかで実際に地面から浮いているようでもあった。

 これが舞姫の実力なのだ。イサールは安堵していた、ちゃんと踊れるじゃないかと。


 イサールの靴底が石畳をかつん、と叩く音。アムルが小銭入れを叩く音。それから、イサールの手の中で髪飾りがしゃらりと鳴く音。たったそれだけの音で、広場は小さな舞台と化していた。

 通りがかった人たちが、思わず足を止めて、耳と目を奪われる。イサールの舞の美しさと、彼の妖艶な笑みに惹き込まれ、男性ですら頬を赤らめた。それでもイサールは女性ではないのだ。イサール自身男性と呼ばれるには少し抵抗があるので、その方が似合っているとは言えるのだが。


 気が付けば、まばらだった人だかりが少しずつ観客を増えていき、イサールとアムルを中心に、大きな輪ができた。中には、音に合わせて一緒に手をたたいてくれる人もいる。

 騒ぎを聞きつけた金物屋の主人が驚いて、店内にある大きな鍋を持って現れると、それをフライ返しで太鼓のように叩き、参戦した。もしかしたら日銭を稼ぐ旅芸人の踊り子のように小銭が稼げるかも知れない。


 観客の中に、笛を持っていた人がいたようで、懐から取り出し、楽を奏でる。

 イサールの舞は、多くの楽がくの音ねに背中を押されて、更に勢いと速度を増していく。

 イサールの舞の情熱と、観客たちの熱気が一つに合わさる。観客は拍手喝采をイサールに浴びせた。


 ◆


 広場が一体化し、その場いた全員の心が最絶頂に達するかと思われたその瞬間、野太い声が割って入った。


「おいっ、お前らか! 最近この街に居座っている余所者よそものは」

 楽の音が、ぴたりとやむ。


 観客の輪を押しのけて、一人の男が現れた。腰まで届く長い黄金色の髪、二メートル近くある身長、屈強そうな肉体。肩から何かの獣の毛皮をかけており、半裸の上半身は鍛えられた筋肉が隆起している。見るからに、ならず者といった風体だ。


 観客たちは、彼の姿を見るなり、恐怖と嫌悪感を露わに距離をおいた。


 男は背後に、ぞろぞろと人相の悪い男たちを引きつれている。そのうちの一人が、イサールを睨みながら指をさす。お頭あいつです、と言って。


「俺の部下たちが世話になったな」


 男の太くて逞しい腕には、黒い縞模様の入れ墨が刻まれている。


 それを目にしたイサールが、はっと表情を変えた。


「あんたは……!」

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