第23話
ニコラが旅立って翌日。
私はモディについて来てもらい薬草園に来ていた。
四日も家に閉じこもっていても時間の無駄だ。
その間はウィッチクラフトで薬や道具の補充をしようと思ったのだ。
そのためのお金はニコラから預かっている。
「薬草にガラス瓶。あとは調味料……」
いくつかの素材を買いに回る。その途中この前の骨董品店が目についた。
獣人の店員さんいないかな。もふりたい。
「こんにちは」
声をかけて店に入る。相変わらず雑多とした雰囲気のある店内。
目ぼしいものないかな?
店内を探索する。すると奥から店員さんが出てくる。
モフモフの犬耳さんだ。
「にゃにかお探しかにゃ?」
彼女はモディを見つけ手を振る。
「ううん、とくには」
「冷やかしかにゃ。さっさと帰るにゃ」
とんでもなく素早い掌返し。冷えた目でこちらを見る。
そりゃそうだ。商売にかかわらなければ客じゃない。
でも探し物はないけど相談事はある。
「ね、ねぇ。店員さん」
「にゃにかにゃ。わたしが店主にゃ」
「その、お耳を……」
触らせてほしい。その言葉が出なかった。
何か内緒話をしようとしてると思ったのか店主はこちらに耳を出す。
思わずその耳を触ってしまった。
突然のことに店主は悲鳴を上げた。
撫でるごとに彼女の口からは艶っぽい悲鳴が漏れる。
「にゃ、にゃにするにゃーー⁉」
私だっていきなり耳を触られたらびっくりする。彼女が驚くのは無理ない。
「そ、そのふさふさのお耳としっぽ触らせてほしいんですが」
私は恐る恐るそう頼む。
店主は真っ赤になって怒りだした。
「させるわけにゃいにゃ。そういうお店じゃにゃいにゃ」
やっぱり駄目か。お金出してもいいのに。
「昼間からにゃにする気にゃ。そういうのは夜にするにゃ」
「あ、アレ? 夜来たら触らせてくれるの?」
そう言うと店主はぼふんと煙を出しそうな感じで赤面した。
「こ、言葉のあやにゃ。ただで触らせるはずにゃいにゃ」
「お金払えばいいの?」
「そういう話でもにゃいにゃ……」
店主はどっと疲れた感じでうなだれた。
そして、奥に引っ込んでいった。
「ぷぷぷ。振られちゃったね」
モディが面白いものを見たとこちらにやってくる。
そこへ店主が戻ってくる。何か小さいメモがきを持っている。
そこには何やら住所が書かれているらしい。
「さ、触るだけにゃら今度させてやってもいいにゃ」
頬を染めてうつむき加減にメモを渡してくる。
店主さんの家の住所らしい。休みの日が書いてある。
「あ、あれ。嫌だったんじゃないの?」
「嫌ってほどでもにゃいにゃ。ま、まあちょっと気持ちよかったしにゃ。むしろもう少し撫でてほしかったにゃ……」
私は先ほどの態度からまさかの許可が下りたことに驚いた。
話の最後の方はよく聞こえなかったがいいと言ってくれたので有頂天になる。
「と、とりあえず一回だけにゃ。特別に二千ミャーレルで触らせてやるにゃ」
「やった。ほんとにいいの?」
お金払ってでも触れるならうれしい。
今回のリッチ討伐の功績金の臨時収入でお金はある。
今度お邪魔しよう。そう思ってると横からじとーとした視線を感じる。
「ステラが悪い遊びにはしった……」
モディが呆れ半分、軽蔑半分の視線を投げかけてきた。
「ええ、遊びじゃないよ。モフモフするのに真剣しかないよ」
これは真剣なお願いだ。店主さんもいいと言っている。
「な、まさか。お姉様がいない隙に他に手を……」
モディから殺気を感じる。な、なんでだろう?
今すぐぐさりとされそうだ。
背筋に冷たいものが走る。言い訳を。何かないか何か。
「モディもニコラの髪を触りたいでしょ?」
それにモディは反応した。
「そ、それはそうだね」
「お金払えばいいって言われたら?」
うぐっと喉を鳴らす。どうやらわかってくれたみたいだ。
「それと同じだよ」
モディはぐうの音も出ない。
明後日がお休みらしい。会うなら休み前日の夜がいいという。
お邪魔させてもらおう。明日の夜会いに行くのを約束した。
今からとっても楽しみだ。
それにしても何で夜じゃないといけないんだろう?
獣人さんはみんな夜型なのかな? そんなことを思う。
冷やかしになってしまったが骨董店を後にする。
何はともあれ一度家に戻る。街の中の方の家だ。
ニコラ不在の間はこちらの家でウィッチクラフトを行う。
「ニコラがいないのにこの子を一人にすれば間違いなく誘拐されるね」
領主のおばさまも保護者のいない私では危ないと許可をくれた。
私が剣姫の関係者であることは知られている。
良からぬことを企む者には私が一人でいるのは飛んで火にいる何とかだ。
そのままモディが護衛になった。
集めた素材で薬を作る。先日売った分の倍の数だ。
もっと欲しいがあんまり素材は手に入らない。
街の中での栽培は限度があるらしく大量に買うと他の店の営業妨害になってしまうからと買わせてもらえなかった。
クズ魔石もたまってきたので魔石鉱溶液に戻す。
結構な量だ。トリッシュや他の魔女の血だとしたら彼女たちはどれだけの血を流してきたのか。ちょっと怖くなってきた。
「ああ、魔女の血って呼ばれてるけど全部が全部魔女の流した血じゃないよ」
私の疑問にモディが答える。
「魔石化したときに体積が増えるからね。それを液に戻すと倍になるんだ」
倍倍で量が増えてきたという。
「なるほどそれならそこまで血が流れたわけじゃないのか」
「そうならいいんだけど。人間に捕まって血を抜かれた娘とか殺されちゃった子もいるよ」
魔女狩り。そんな事件が起きたらしい。
魔石の利用で生活が向上したからだ。
「ごめん、嫌なこと聞いちゃったね……」
私はモディに謝った。
「気にしないで過去の話だよ」
モディはそう答えた。
声音はいつものようだったけど彼女の表情に暗い影を落とす。
やはりこの世界はひどく歪で残酷だ。
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