第24話

 翌日。相も変わらず調合をする。

 自分で言うのもなんだけどかなり手際よくこなせる様になってきた気がする。


「いい出来だね。品質はもう私たちと遜色ないよ」

「そう言ってもらえるとうれしいな」


 モディにも認められ浮かれていたのが悪かった。

 うっかりナイフで手を切ってしまったのだ。


「もう。あぶないなあ。大丈夫?」

「うん、小さな傷だから大丈夫」


 傷口からもれた血が近くにおいてあった魔石鉱溶液にかかってしまった。

 そのとたん液は魔石化して固まってしまった。


「あれ、なんで?」


 モディは不思議がる。魔女の血が反応するのは魂の熱。

 普通に出血しただけなら魂の熱は出ないとは言わないまでも魔石化するほどではないはずだった。つまり私の体は魂の熱が高いということだ。

 魔女かアンデッドの証拠だった。


「なんで。普通こんなに魂の熱があれば体がもたない。まさか本当に魔女なの?」

「違うよ、ちゃんと人だよ」


 私の言い訳にモディは疑念を抱く。


「おかしい。これだけの魔力を内に秘めた人間なんて。でも血は赤いまま」


 そう赤い血の人間だ。魔女の血は蒼い。私はまだ人間のはずなのだ。

 モディは私の血を調べ始める。あ、まずいこれ気づかれる。


「そうかアストラル。あなた、人の皮をかぶったアストラルね」


 バレた。そして早速のピンチ。モディはすかさず剣を抜く。


「やっぱりお姉様に近づいたのには訳があったんだね」

「違うよ。たまたま。そんなに警戒しないでよ」


 先日リッチになった少女を私たちは問答無用で魔石に封じた。

 私がアストラルである以上もう命はない。


「待ってモディ。殺さないで。私の中にはトリッシュが……」


 その時私の首は地面を転がっていた。

 ああ、殺されちゃった……

 体が灰になって消えていく。

 私はそのまま命を刈り取られた。魔女の血を振りかけられる。

 石の中に封じられ私は意識を失った。


「うわああ。やめてモディ!」


 私は薄暗い部屋で目を覚ます。いつものニコラの寝室だった。

 ジトっとした汗がまとわりつき苦しい。夢、だったのかな。


「危ない。夢でよかった」

「夢じゃないよ?」


 トリッシュがそう呟く。いきなり話かけられると驚く。

 それに夢じゃないとはどういうことだろう。


「目が覚めた? ごめんね、殺しちゃって」


 モディが部屋に入ってくる。しゅんとして落ち込み気味だ。

 どうやら秘密がばれたようだ。


「ニコラには内緒ね」

「はい、わかってます。先生」


 魔女たちの師匠。トリッシュ。モディは彼女のことを先生と呼んだ。

 事情はすべて話した。

 トリッシュは完全には死んでいないこと。

 砕けた魂のつなぎに私の魂を使っていること。

 まだ蘇生魔法は使えないことをだ。


「なるほど、ではしばらくはこのままですね」

「うん、変に気を使わないで今まで通りね」


 トリッシュにそう言われモディは一応の納得をみせた。

 演技の上手いモディのことだ上手くやってくれるだろう。


 それにしても汗をかいて気持ちが悪い。

 軽くシャワーを浴びる。そして綺麗な服に着替えた。


「うふふ、楽しみだなあ。モフモフ」


 夜に落ちあう約束で骨董品店の店主と待ち合わせている。


「やっと来たのにゃ。遅いのにゃ」


 魔女の呪いのせいで『な』と語尾が『にゃ』に変わってしまうらしい。

 獣人族の女性皆にかけられた迷惑な呪いらしい。

 誰がかけた呪いかはわからないらしいけどなんて奴だ。

 よくわかっている。いい仕事をした。めちゃくちゃ可愛い。


「先に食事にしましょう?」

「わかったにゃ」


 聞くと一人暮らしらしく普段は外食が多いらしい。

 そこで食材を持ちこんで彼女の部屋で一緒に食べることにした。

 メニューはカレーのようなもの。かの世界にあった食材はここにはない。

 使う食材は似たものや全然違うもの。

 似たものとしか言えないが味と見た目はまんまカレーだ。


「辛いけどおいしいにゃ。また作ってほしいにゃ」

「いいですね。その時は私もご相伴にあずかります」


 店主ことミーヤさんはご機嫌でもぐもぐと私の作ったカレーを食べる。

 辛いものを食べると汗が出る。

 食事がすむとミーヤさんはお風呂に向かった。

 その間私とモディは使った鍋と食器のおかたずけ。


 お風呂上がりのミーヤさんはバスローブを身にまとい現れた。

 純銀の髪に三角お耳。ふさふさの毛のしっぽ。

 まだ湿っているので乾かすためにタオルを持っている。


「じゃあ乾かすよ」


 温風の魔法で彼女の頭を乾かす。風になびく銀髪は美しい。

 櫛で撫でてその髪を乾かす。髪は思った以上にふわふわだった。

 思わず顔をうずめたくなる。


 次いでしっぽ。こちらも温風で乾かし始める。

 毛が絡まないように櫛で丁寧にすいていく。

 するとミーヤさんの口から艶っぽい声が漏れだす。


「ふみゃ、むにゃ……」


 ふにゃりと緩んだお顔。やっぱりかわいい。

 その様子をモディは目を覆いつつ指の間から覗いてくる


「こ、こんなことエッチすぎるよ。ニコラお姉様には見せられないよ~」


 モディってば何言ってるんだろう。ただ髪を乾かしてるだけでしょ?

 顔を真っ赤にしてこちらの様子を見ている。


 髪が乾ききってから約束のモフモフタイム。


「髪としっぽだけにゃ。へ、変なところは触っちゃいやにゃのにゃ」


 バスローブ姿のまま私の膝の上に座るミーヤさん。

 尻尾をなでやすいようにしてくれている。


「先ずはこのお耳から」

「え、えっとお手柔らかに頼むにゃ」


 綺麗でフワフワのお耳。銀髪のそれは滑らかに私の手をすり抜ける。

 極上のさわり心地だ。


「そして本命。こっちのふさふさしっぽ」


 バスローブのお尻から覗く綺麗な銀色のしっぽ。

 それを撫でる。ふわふわが違う。こちらは至高のさわり心地。


「あ、だめにゃ。気持ちよすぎにゃ……」


 なんか艶めかしい。ミーヤさんの口からは嬌声が漏れる。

 その様子にモディは顔を真っ赤にしながらソファーで見つめる。

 だんだん私もやばいことをしてる気になってきた。

 触っていいといわれてもこれはやりすぎじゃないかと?


「だ、だめにゃ! もう……」


 しばらく撫でるのを続けているとミーヤさんは体をびくびくと震わせぐったりしてしまった。声をかけてもなんだかぼうっとしてる。

 なんか罪悪感を感じる。今日のところはここまでにしよう。


「ありがとう、ミーヤさん。触らせてくれて」

「い、いやどういたしましてにゃ……」


 また触らせてもらいたい。でもお金ないんだよね。


「そんな顔するにゃ。ま、また触らせてやるにゃ。今度はただでもいいにゃ……」


 意外と髪のトリートメントがお気に召したのかそんなことを言ってくる。

 今度はみんなでご飯を食べてお泊り女子会もいいかもしれない。


「今度はみんなでしようね」


 私の言葉にモディは体をびくつかせる。

 ミーヤさんもなぜか頬を赤らめた。


「み、みんなでって。私も?」

「これ以上は 身がもたにゃいにゃ……」


 二人は何かつぶやいた。また楽しみが増えた。

 ニコラ早く帰ってこないかな。

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