第19話
アンデッドを倒し切り安全を確認したら私は気絶してしまった。
そしていつもの白い部屋で意識を取り戻す。
ここ数日。眠るたびに招かれる不思議な部屋。たぶん夢の世界。
そこには一人の女性が机に向かい椅子に腰掛けている。
「こんにちは。ステラ」
「こんにちは。トリッシュ」
私たちは軽い挨拶をかわし席に着く。
「貴女は何で私の中にいるの?」
「逆だよ。私の中にあなたを招いたの」
そう、私の体にはあの不殺の魔女の意識が眠っている。
トリッシュの砕かれた魂の一部が私を形づくっているらしいのだ。
私は人の皮を被ったアストラルだったのだ。
そのことについ最近気づいた。
トリッシュは自身の人格を取り戻すために砕けた魂の
「トリッシュは死んでから五年でしょ?」
「そうだね。死んでから五年ということにはなってるね」
「生まれ変わったとして、この体の年齢とあわないんだけど?」
「ふふ、そんなのどうしてかわかるでしょ?」
トリッシュは全然よい魔女なんかじゃなかった。
どうやったのかまではわからないが、この子の体を乗っ取っているのだから。
小さく不憫な幼い少女。それに憑りついて体を乗っ取った。
トリッシュは殺されても完全には死んでいなかったのだ。
「放っておけばどうせ死んでた命だもの。私たちと重なって命を繋いだ。大丈夫、消えちゃったわけじゃない。今は少し微睡んでるみたい」
元の人格というか魂は消えたわけでなくトリッシュの一部となって眠っているようだ。この部屋の壁際に小さなソファーがあり、そこで私たちの姿をした少女が眠っている。三人の魂が融合してできた中での主人格、それが私だ。
「ニコラに何で伝えないの?」
「そうすればあの子は無理して蘇生魔法を使おうとする。失敗すれば私たちは私たちでいられなくなる。命の対価は命。成功させるには大量の人の命がいる。まだ叶えられない」
「つまり生贄がいるってことか。やっぱりあんたらどうかしている」
私はニコラとトリッシュを批難する。
人を人とも思わずに自身の目的のために魔法を使う。
私にとって二人は悪だ。
大量の魂をモザイクアートのようにつないで一個の魔女を再誕させる。
そういう話だ。でもそれって本当に本物と言えるのか。
駄目になった部分をほかの何かで埋め合わせていった時どこまでが本物でどこからが別物になるんだろう。テセウスの船だっけ。その話によく似ている。
継ぎはぎの魂。私は果たして本当に私なのか。元の私じゃないのかもしれない。
「まあ、今はいいか。まだトリッシュの人格片はどこかにあるんだよね?」
「ええ、私がこうして在る以上エーテルは天には帰らずまだ半分近い魂がどこかにあるはず。それを取り戻すのがひとまずの目標だね」
トリッシュ蘇生まではまだまだかかりそうだ。魔石化した彼女の魂を見つけることと生贄にする魔石。どちらにしてもすぐには手に入らない。
ニコラの目的が叶うまでしばらくかかりそうだ。
そのことに安堵する。だって私の命はそこで終わるということだから。
トリッシュの細片がそろった時、不要になった私とこの体の持ち主の魂はトリッシュかニコラの手によって消されてしまうだろう。
黙って消されるつもりはない。それまでに力をつけてやる。
「命は大事にしてよね。私もう一度死ぬのはごめんだからね」
トリッシュはそんなことを言いながら笑う。一度死んでるのは私も変わらない。
また死ぬのはちょっと怖い。死なないために彼女はたまに私に力を貸す。
ただし表に出てくるときは相当体力を使うようだ。
そうそう長い間表にはいられないという。
「失った部分の多さが違うから貴女の方が主人格になってるけど、そのうち私が見つかれば見つかるほどいつでも入れ替われるようになるはず」
トリッシュの細片がそろえばそろうほどこの体の自由度は減る。
それまでに何とかしないと。
魔女は魔法を使って亡者を眠りにいざなうもの。そう聞いた。
最弱の魔女と最強の魔女。その戦いは今から幕をあける。
私は死ぬわけにいかない。おとなしくは寝られない。
トリッシュを眠らせるか、説き伏せる必要がある。
不殺の呪いを解き皆が眠られる世界を作りたい。
人はみないつかは必ず寝るべきだと思うから……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます