第29話「過去の傷と新たな衝突」

一方、ツキノはシスティの様子をうかがっていた。


「…………」


ペタリとドア越しに自身の自慢の耳を押し当て部屋の音を探ろうとしている。

特に何も聞こえたりはしない。

数分後システィの溜息と呟きが小さく聞き取れた。


「………」


「………はぁ…」


「あの子…私が居なくなってから生まれたんだ。あのクソ神も変わらないみたいだし、やっぱり殺すべきね。この場所が平和すぎて忘れそうになっていたわ。」


ドア越しに押し当てていたうさみみをスッと戻しツキノは平然とした表情で部屋に入る。


「システィ!大丈夫ですか!?」


少し大きめの声に身をビクッとさせてからシスティはツキノを見る。

不意に脅かされたような感覚で少し気恥ずかしくなったのか頰を赤らめながらシスティはツキノに怒る。


「コラっ!ツキノ!部屋ノックくらいしなさい!びっくりするじゃないの!」


「あははー。すみません…普通に忘れてました。」


「もぅ…」


「ごめんなさい。」


「……それで?あの2人は?」


「わからないです。ボク、システィが心配だったから来ちゃったので。」


「……………。」


頰を照れくさそうに人差し指で軽くかきながら、平然を装っているツキノに対してシスティは素直に心配してくれていた事実を知って嬉しい気持ちと何ともいえない気持ちでいっぱいになり顔が徐々に赤くなっていく。

システィが首を横にぶるぶると振り今ある感情を振り切り言葉を返す。


「心配…してくれてありがとう。ツキノ」


システィからのその言葉に笑顔で返すツキノ。


「ボクは何もしてないですよ。でも…何かあれば言ってくださいね?ボクたち仲間なんですから。」


「……仲間。」


「………。どうかしましたか?システィ?」


一瞬のフラッシュバック。

システィの脳裏に映る惑星ゼウスでの記憶。


【神界】


「今回はコイツらを連れて、忌々しい邪竜を殺してこい。」


神からの命令で数名の天使と同行し下界(人間界)へと向かう。

邪竜との対戦でシスティは無心で戦う。

邪竜だけあって流石の強さ。

同行した天使も大半が食われた。

邪竜との戦いは激しいものとなった。

戦いなさ中でシスティは邪竜のブレスを浴びてしまう。

邪竜のブレスは呪いそのもの。

ダメージが大きかったらしく地面に叩きつけられる。

血反吐を吐きながら追撃を防ごうと障壁を張るが間に合わない。

そう思ったが…攻撃は当たらない。

目を開くと目の前には同行していた天使たちが目の前で自身の身を焦がしながら障壁を張っている。


「どうして…そんなこと。」


システィは不思議で仕方がない。

なぜなら…感情が確立していない。

天使たちは答えた。


「決まってます。仲間ですから。」


「仲間…。わからない…。」


「大丈夫です。いずれわかるときが来ます。」


邪竜のブレスは勢いを増す。

天使達の障壁がパキパキと音を立て破壊されていく。

その度に障壁越しに邪竜のブレスの呪いが天使を蝕んでいく。

あまりの苦しみに悲痛な声をあげ悶え苦しむ天使達。


「もういい!やめろ!お前たちが苦しむ必要は無い!」


システィが必死な声を上げ天使達に逃げるように指示するが全く言うことを聞かない。

それどころか天使達は笑いかける。


「仲間のために身を呈して…何かを成せる。こんな幸せはないだろう。」


「ふざけるな!自己犠牲だ!お前たちは!お前たちの命があるだろう!」


「…………ありがとう。なら、せめて仇をとってくれ。」


邪竜のブレスに撃ち抜かれその天使が死んだ。

その光景を目にしてそこからの記憶が欠落している。


「…てぃ?」


「システィ…?」


「システィ!ってば!」


体を揺すられ、はっきりとした声に反応するシスティ。


「あ、ごめんなさい。少し昔を思い出しちゃったのよ。」


「…そうでしたか。いい思い出ですか?」


「…ううん。悪いほうかな。あはは…。」


「…………。えい。」


ツキノは何も言わずにシスティを包み込むように優しく抱きしめた。


「!?」


システィは何が起きたかわからずジタバタするが次第に落ち着きツキノに理由を尋ねる。


「な、なんのつもりよ…。」


「以前と変わらないですよ。」


「ああ。…おまじないね。」


「はい。落ち着きましたか?」


「………ええ。大丈夫よ。ありがとう。」


「むふふ…じゃ。そろそろ…2人のところに戻りましょう!」


「そうね。ちゃんと向き合わないとね。」


システィを連れツキノは部屋を出る。

リビングにはリューコとシスティアの姿は無かった。

システィがツキノに呼びかける。


「ちょっ!?あれ!!」


システィが窓を指さしツキノに強く訴えかける。

ツキノもその様子からただ事じゃない事を察する。

そこで目にした光景は唖然。

外でリューコとシスティアが戦闘を始めていたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る