第25話「姉弟の炎と斬撃:信念のぶつかり合い」

初めて物理的に傷つけた。

罪悪感はない。

大切にしてきた。

一番守りたかった存在。


「斬撃弱くなってる。」


「なめるな!」


斬撃を飛ばしつつ接近するいぬお。

しかし、いぬこの能力「狼火」により斬撃も容易く相殺。怒涛の巻き返し。

目の前に広がる無数の炎弾。


「ぐっ…!!?」


「ほらっ!遅いよ!」


炎弾に気を取られ背後を取られ容赦無く打ちのめされる。

勢い良く蹴り飛ばされ今度は受け身を取り損ねる。

全身に広がる痛みで立ち上がるのが遅い。

その様子を静かに見守るいぬこ。


「……やっぱり強いな。姉貴。」


「伊達にお姉ちゃんしてないからね。」


「まだ折れてないぜ。まだ…」


「………いいよ。相手してあげる。その代わり、私がこの勝負に勝ったら何でも1つお願いを聞いて欲しいな。」


「勝てたらだろ。俺だって…負けるつもりは無い。俺が勝ったら俺の願い聞いてくれよな。」


「…いいよ。俄然やる気が出てきたよ。さっきまでの暗い気持ちが嘘みたいだよ。」


ゆらゆらと立ち上がり態勢を整えるいぬおに対していぬこも戦闘態勢に身構える。

それぞれの視線が交差する中、二人は同時に一直線に走り出す。

そのまま近接戦。

ひたすらに殴り合い取っ組み合って信念を込めた頭突き。


「っ……!?」


意識が互いに飛びそうになる。

再び距離を取る。

いぬこが小さく炎弾を生成。

撃ち放つ。

いぬおも全て避けきるように専念するが避けきれない数カ所かすり傷を負ってしまう。

反撃程度に斬撃も飛ばすがいぬこはアクロバティックに回避。


「くそっ…。」


「いぬお、確かに強くなったと思う。でも、まだ私に勝てない。」


「うるせぇ!わかってる!でも!それでも!この根性だけは!誰にも!負けたりしない!!うおおおお!!」


「根性は認めるよ。けどね。実力も必要なの。」


一直線に向かってくるいぬおに対してその場から動こうとしないいぬこ。

違和感に気づくのが遅かった。

背後からいぬこが生成した炎の狼がいぬおに飛びかかり腕に噛みつく。


「ぐあああああっ!!?」


「いぬお。これが実力よ。」


いぬこは炎弾を生成。

いぬお目掛けて撃ち放つ。

目の前が赤く染まる。

いぬおは意識を失い倒れた。


「椿?見てたんでしょ?」


ガサガサと茂みから姿を見せる椿。

頭をかきながら、申し訳なさそうな表情。


「いつから気がついてた?」


椿がいぬこに尋ねると即答。


「この場所に着いてから。」


「……そうか。」


「頼まれたんだよね?多分。いぬおに。」


「まぁ…な。」


「いぬおのこと、これからも鍛えてあげて。」


「ああ。任せてくれ。」


気絶したいぬおを背負ういぬこ。


「重くなったなぁ…ほんと。」


「俺が変わるぜ?」


「ううん。大丈夫。私が背負いたいから。」


「そうか。」


私達はログハウスへと帰路につく。

ログハウスが見えてきた頃、リューコ達が外に出て帰りを待っていてくれた。

そして、また1人知らない子が増えていたのだった。


「あれ?また…一人増えてない?」


「ああ。増えてるな…。」


「どんだけ増えるんだろね…?」


「わかんねぇ…?」


「でも…なんだかにぎやかで私、最近本当に退屈しないな。」


「俺もだ。理由はどうあれ…お前らと出会えて毎日楽しいぜ。」


「………うん。」


「あっ!?いや…いぬこ…」


「大丈夫だよ。ありがとう。椿。」


「…わりぃ…」


「大丈夫!さっ!次はどんな子なのか…楽しみ。」


いぬこは大きく手を振り叫んだ。


「ただいまー!皆—!」







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